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食卓の上には、ローストビーフやペスカトーレのパスタを始め、サラダやスープなど色とりどりの料理が並んだ。陽平が予め下準備をし、和樹が盛りつけをしたものだ。そして食卓の中心には、件のケーキがドンと置かれている。
「俺の労働の成果だ。心して食えよ。買ったらクソ高いんだから……」
「じゃぁ、トナカイさんに感謝しないとね」
「だからその話題はもう出すなって」
「えー、ノリノリで愛嬌振りまいてたじゃーん」
「あれは仕事だからであって……」
「あ、そうそう。カイロありがとね」
「あぁ、あれな。お前鈍すぎんだよ」
「ゴメンゴメン。いやでも、嬉しかったよ」
素直に出られると、陽平も気恥ずかしさでどう返してよいか分からなくなる。
「さ、ご飯にするぞ」
「うん。食べよっか」
「それじゃぁ、いただきます」
「いただきます」
陽平は真っ先にペスカトーレに手をつけた。作り慣れているだけあって、それなりに美味い。向かい側では、和樹は幸せそうにローストビーフを頬張っている。
「んー、やっぱ陽平さんのローストビーフは美味いわ」
「お前、毎年それで飽きないのか?」
「陽平さんこそ、俺に毎年パスタリクエストするよね?」
「じゃぁ、来年は何か別の物を頼もうかな」
「うーん、俺もって言いたいところなんだけど、もうクリスマスは陽平さんのローストビーフ食べる、ってのが身体に染みついてるんだよなぁ」
「ハハッ、それは少し分かるかもしれん」
食事をあらかた終え、ケーキも残りわずかになった頃合いで、和樹はガサゴソと何かを出してきた。
「ねぇ、陽平さん。これ、開けてみて」
和樹に渡されたのは、小さな紙袋だった。中には化粧品のような小箱が入っている。
「これは?」
「ハンドクリーム、陽平さん、手ほったらかしにしてるからガサガサじゃん。ずっと気になってて」
「あー」
陽平が自分の手の甲を見る。確かに乾燥して所々小さなひび割れができている。
「でも、俺……」
せっかくプレゼントをもらったというのに、陽平はどこか浮かない顔だ。和樹がすぐに陽平が言おうとしたことを察する。
「『料理で人の口に入る物触るから、手には何も塗ったりしない』って言いたいんでしょ?」
「うん……」
それは昔から陽平が決めていることだった。料理人の父もそうだったのだ。
「これは、原材料がオリーブオイルとか、全部食べられる物で作ったクリームなの。これなら、陽平さんも使えるんじゃないかなぁ、って」
陽平は言葉に詰まる。
サプライズで何かを用意していたことだけでも驚いたのに、出来過ぎている。
まんまと一本取られた気がする。
「和樹……、ありがとね」
「陽平さん、メリークリスマス!」
割れるような、和樹の眩しい笑顔だった。
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