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「ケーキ、食べる?」
少し疲れた僕達はカフェに入り、紅茶を注文する。上品な内装で人気のカフェらしく、お客さんは女性客やカップルが多い。マリエッタにケーキを食べるかを聞くと、ぱぁっと顔を明るくし、うんうんと何度も頷いた。
やっぱり、好きな物は変わらないんだ。
僕は以前と変わっていない事に少しホッとしながら、メニューを渡す。真剣に何にしようか悩むマリエッタを微笑ましく眺めていた。
「私はチーズケーキにします。フレディー様はチョコレートケーキ?」
「う……うん……」
ぱっと顔を上げ、僕にニコッと笑いかけるマリエッタに、さっき心の中で燻ぶっていた違和感が大きくなる。
僕はマリエッタの翠玉色の瞳をじっと見つめた。マリエッタは僕の視線に落ち着きをなくし、下を向いてしまう。
たしかに僕はチョコレートケーキが好きだけど……なんで記憶をなくし、何も知らないはずのマリエッタが、数あるケーキの中からチョコレートケーキを選んだ?
おかしい……さっきのうさぎのハンカチといい、チョコレートケーキといい……まるで、僕の好きな物を知っているような……
「お、フレディー、デートか?」
聞き覚えのある声に思考が遮られ、振り返った。そこには友人のニコルが立っていて僕は少し焦る。
記憶喪失は家族と僕以外には知られたくない……というのがアデスト家の意向で、マリエッタとも面識があるニコルに会ってしまったのは正直マズイ……
「なんだぁ、婚約者と喧嘩ばかり」
「あああああ!!!」
ニコルがニマニマ話すのを意味もなく大きな声を出し、慌てて阻止する。
まずいってば!!
急に大声を出した僕にニコルは不可解そうな顔をしたが、すぐにマリエッタの視線に気づき、微笑んだ。
「マリエッタ嬢、お久しぶりです」
「お久しぶりです。ニコル様……」
笑顔で挨拶を交わしている2人に僕は驚き、マリエッタを凝視してしまう。
ニコル様……?
マリエッタを目を見開いて見ている僕の姿に、ニコルがプッと吹き出した。
「マリエッタ嬢が可愛いからって、お前、見つめすぎ。じゃあ、俺、帰るから。仲良くな」
笑いながら手をヒラヒラと振り、店を出ていったニコルにああ……とだけ返事をし、僕はゴクリと唾を飲み込む。
ずっと引っかかっていた違和感の最後の欠片がピタリとはまったように、僕の頭に浮かび上がった言葉。
「記憶……戻ったの?」
マリエッタはビクッと肩を震わせた。
僕は確信する。
マリエッタの記憶は戻っている……
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