婚約者が記憶喪失になりました……思わず嘘をついてしまいましたが、仕方なかったと言うことで!!(←言い訳です)

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 マリエッタは僕の言葉を聞いて、今まで以上に声を出し泣き始めた。僕はオロオロしてしまう。 「な、なに……マリエッタ……まだなんかある?」 「嬉しくて……あの……素直になるよう頑張るから……これからもよろしくお願います」 「あ、うん、こちらこそ」  と、とりあえず一段落ついたかな……もう、穴があったら入りたいくらい周りからニヤニヤ見られてるけどさっ。  恥ずかしさの余り、この場所に居辛くなった僕はマリエッタに声を掛けた。 「そろそろ……」 「いやはや、良かった、良かった!」  は?  隣の髭の紳士が立ち上がり、拍手をする。それにつられ、周りの客達からも拍手喝采が起こり、僕は店を出るに出られなくなってしまった……  何だこの状況? おいっ! 店員まで拍手するなっ! 「丸く収まって安心したよ」  髭の紳士は僕にニッと笑うとピリピリ髭を取り、眼鏡を外した……僕もマリエッタもその顔に見覚えがある。 「お父様!」 「アデスト伯爵!」  そう……紳士はマリエッタの父上であるアデスト伯爵だった。  はぁぁぁ!? 何やってるんですか!! 「な、なんで? なんでお父様が!」 「君達のデートが心配でな」  よいしょとマリエッタの隣に座り、肘をついてニコニコと僕に笑いかける。 「伯爵……それにしても変装なんて……」 「なかなか、似合ってただろ?」 「……いや、論点はそこじゃありません」 「マリエッタが記憶のない振りをしているのは、家の者は皆気づいてたよ」  え……僕だけ騙されたの? 「お父様……えっと……ごめんなさい」 「それに関しては、後でしっかりお説教するけどね。マリエッタがフレディー君の事が大好きなのは子供の頃から知っていたからね」  子供の頃から……? 「君と遊んだ日は大変さ。今日はフレディーがね、今日はフレディーがねって、ずっと君のことを話してた」 「お、お父様……やめて……」  恥ずかしそうに顔を真っ赤にするマリエッタ。  えっ……そうなの? 「まぁ、意地っ張りは誰に似たのか……素直になれない娘だけど、フレディー君、これからも娘をよろしく」 「は、はい」 「泣かせるのは今日が最後だからね」  伯爵は笑顔のまま、目だけが僕を睨みつける。  ……僕が泣かせたわけじゃないですってば!
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