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売り言葉に買い言葉の2日後、マリエッタの父上であるアデスト伯爵から急ぎの連絡が入った。報告にきた執事に思わず声を張り上げてしまう。
「マリエッタが階段を踏み外した? 大丈夫なのか!? ケガは!?」
「はい。幸いにもケガはなく……」
執事の言葉に安堵の息を吐きながら、ドサッと椅子に座り込んだ。
マリエッタが無事で良かった……すぐに見舞いに行かなきゃな。
――見舞いなんて来なくていいのに!
あまりにも容易に想像できるマリエッタの台詞に僕は苦笑いをする。
だが、見舞いに行かなければ、これ幸いとウキウキ婚約破棄するって言うだろうし、2日前の喧嘩で婚約破棄に同意している形になってしまった。早く否定しないと勝手に話を進められては困る。
「今からマリエッタの見舞いに行く。準備を」
僕がデスクを片付け始めながら指示を出すと、執事は少し顔を歪めた。
「それが……」
口ごもる執事を不審に思った僕は眉根を寄せる。
「どうしたの?」
「それが……マリエッタ様は……その……」
何でもキッパリ言う執事の言い辛そうな様子が、僕の不安を増長させた。
ケガはないって言ったのに……他に何かあった?
「なに? はっきり言ってくれない?」
「……はい。マリエッタ様にケガはないのですが……記憶を失われたそうで」
「…………記憶がない?」
「はい」
「えっと……えっ? そんな事、あり得るのか?」
記憶がなくなる? ケガもしていないのに?
「そうですね。稀に頭を強く打つとあるらしいです……」
「……治るのか?」
「お医者様もわからないとおっしゃっているらしく……」
「……そうか」
返事はしたものの、記憶がないという事がピンとこず、状況がよくわからない。
「……とりあえず様子を見に行きたいから、見舞いに行ってくる」
「かしこまりました」
執事は馬車の準備をする為、部屋を出ていった。1人になった僕は着替えながら、ぼんやりと考える。
記憶がないって……僕の事も忘れてしまったのだろうか……?
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