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あれから数日経ったが、マリエッタは…………普通だった。
特段変わった事もなく、以前と同じ様に生活している。記憶をなくし、僕を婚約者として認めている事以外は。
欲しい物があるから……と買い物に誘われ、町にきた僕達。店先に並んだ売り物のドレスを見ながら、マリエッタは瞳をキラキラさせていた。
「わぁぁ、素敵! ね? フレディー様!」
マリエッタは微笑み、僕は笑顔を返す。
平和な日常。傍から見たら夢にまで見た幸せな恋人同士。このままで……いいのかな……うん……でも、まぁ、仕方ないよね。うん。
「フレディー様?」
マリエッタが僕の顔を覗き込む。
「ああ、ごめん。それ、買うの?」
僕は微笑みを浮かべながら、マリエッタが手にしていた男性用ハンカチに目をやる。
父親である伯爵へのプレゼントかな? 男性用ハンカチでうさぎの刺繍って珍しい……
「え……っと、はい。フレディー様へのプレゼントです」
「えっ!?」
マリエッタが僕にプレゼントだって!? 今日という日を記念日にするしかないじゃないか!
僕は嬉しくて自然と緩んでしまう頬をパチンと自分の両手で挟んだ。
うん、痛い。夢じゃない!
現実である事を確認しながら、ある疑問が頭に浮かぶ。
でも、なんでうさぎなんだろう? 男に贈るには些かチョイスが不思議なんだが……
「ありがとう、嬉しいよ。なんでうさぎを選んだの?」
「だってフレディー様、うさぎお好きじゃないですか」
……あれ? 僕、マリエッタに話した事あったっけ? たしかに子供の頃はそんな事言った気もするけど。
「なんで知っているの?」
「あっ……私が好きなんですの、うさぎ。可愛いですもんね!」
慌てふためくマリエッタに僕は違和感を覚えながらも、そんなもんかな……と思い直し、マリエッタからのプレゼントはありがたくいただいた。
僕は何度もハンカチを見てはニヤけてしまう。
……うさぎが可愛いなんて女の子だな。以前のマリエッタだったら、ライオンが好きとか言いそうなのに……
自分の思考にハッとし、以前は……なんて比べるような考えを吹き飛ばすように頭をブンブンと左右に振った。
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