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「い、言えよ! 記憶戻ったんなら、言えよ!!」
今までの言動が恥ずかしくなり、思わず声を荒らげてしまう。
「…………」
「黙るなよ……」
僕に羞恥心の嵐が吹き荒れる中、ただただ俯いているマリエッタ。
沈黙が流れる……
仕方なく口火を切ろうとすると、マリエッタがグズグズ泣き出してしまい、僕は動きが止まってしまった。
マリエッタが泣くなんて、前代未聞、空前絶後、青天の霹靂!!
マリエッタの嗚咽が店内に響き、お喋りしていた周りの客達も黙り込む。チラチラと周囲から冷ややかな視線を送られた挙げ句、隣に座っていた髭の紳士になぜか注意をされてしまう。
「女性を泣かせるのは紳士として失格ですよ」
ええっ!? 僕、何もしてませんけど!!
「お待たせしましたぁぁ」
この緊張漂う空気を破ったのはカフェ店員の呑気な声。
紅茶とケーキをテーブルの上に置き「ごゆっくりぃぃ♪」とにこやかに店員は下がっていった。
お仕事とはいえ、この凍りついた雰囲気の中、何事もないように接していくとはさすがはプロ、強者である。
「と、とにかく、食べよう。紅茶も冷めちゃうし」
泣いてるマリエッタに紅茶とケーキを優しく勧めると、下を向いたままコクンと頷いた。泣く以外の反応があった事に安堵し、マリエッタにケーキの皿を渡す。フォークを手にし、黙ったままパクパクとチーズケーキを口に運ぶマリエッタ。
あっという間にお皿からチーズケーキはなくなり、再び沈黙が続く。僕は耐えきれなくなり、マリエッタに声を掛けた。
「チョコレートケーキも食べる?」
マリエッタは頷くとチョコレートケーキの皿を手に取る。パクパクパクと忙しそうにチョコレートケーキを口に入れ、とうとうチョコレートケーキもなくなった。
……よく食べるな。
それどころじゃないのはわかるのだけど、ついそんな感想を抱いてしまう。
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