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「どうしたの? 熱でもあるのか?」
とある日の朝に彼女にそれまでと違った印象が会ったことに僕は気付いた。
「別にそんなことはないよ。どうかしたの?」
「頬が赤い」
気付いたのはそんな事だった。彼女の頬が紅で染めたようにほんのりと赤みを帯びていた。
彼女は「そうかな?」と疑問の表情をして自分の頬を抑えて家の鏡に映していた。すると自分でも違いが解った様子。
「どうしたんだろ? 近頃寒くなったからかな?」
思えば極寒の戦場で戦っていた時には彼女は切れそうなくらいに痛々しく、頬を赤くしていたのを僕は思い出す。
「まあ、熱が無いんだったら良いよ」「うん。取り合えずは元気かな?」
ちょっとした問題のない事だと思っていた。でも、彼女の頬の赤みは暖かい部屋でも消えなくて、ずっと続く。
普段化粧なんてしない彼女だったが、流石に気になったのか赤みを目立たなくするようになる。けれど、これは終わりの始まりでしかなかった。
赤みを気にもしなくなった頃、彼女が体調を崩した。でもそれだって別になんてことはない。ちょっとした疲れみたいで熱もなくただ体力が減っているくらいのものだった。
「急いで直す必要だってもう無いんだから、のんびりと眠ってなよ」
この町に医家なんて居なかった。そんな者よりも彼女の魔法や薬の方が重宝されている。僕は彼女から教わった知識と魔法で栄養剤を作り与えて、ただそれだけで安心していた。悪い事にはなるまいと信じて。
「まるでお年寄りになった気分。身体が重たくて億劫になる」
数日が過ぎても彼女が回復する事はない。だけど、痛みなんかの症状が無いのは救い。良い事だと思っていた。
彼女が回復しないが、昔の仲間が訪れる。それは彼女よりも医療魔法に長けた者だったので、彼女の様子を診てもらうのに好都合でもあった。
「久しぶり。二人とも元気? 田舎暮らしなんてあこがれるわー」
「自分は都会の町が好きなくせに」
現れたのは主に救護担当だった彼女と年齢の近い女の子。まだ戦場に出向いているが、僕たちが引退したのを知って様子を見に訪れたのだった。
「あーあ、あたしも旦那が居たら戦場なんてお別れしてのんびりと暮らすのになー」
「君が引退したら救われる命が減ってしまうよ。いつだったか部隊に帯同してくれた時は僕の命も救ってくれた」
これも昔話。ある戦いで僕は瀕死の重傷を負った。その時にかの女の子が居てくれたおかげで今の僕が有る。
「君の生きる執念が有ったからだよ。彼女と付き合い始めた時だったんでしょ?」
けらけらと楽しそうに笑っているが、僕だけはこれに照れるしかなかった。彼女はこの子になんでも良く話していた様で、それからも二人で楽しく話していた。
「ごめん、ちょっと疲れた」
けれど、彼女も昔と同じではなかった。話しているだけで疲労は蓄積している。
「そうだね。病気だったんだってね。あたしが診てあげようじゃないか」
「タイミングが良かったからそれもお願いしたかったんだ」
腕利きで有るかの子に頼んだなら、彼女の病気なんてたちどころに治ってしまうかもしれない。僕は期待を持って待っていた。
診察を始めて彼女に問診をしながら病気の判断をする。彼女は診察が終わると「疲れた」と眠ってしまった。本当に体力が無くなって彼女らしくない気がしていた。
「ごめんね。途中で眠っちゃって。診断はできたの?」
まだ僕はそんなに彼女が重病だとは思ってなんて居なかった。彼女の眠っている姿を見つめているかの子は切なそうな顔をしていた。
「この子。恐らく枯葉病だよ」
その病気の名前は僕は痛いほどに知っていた。この病気でどれほどの部隊員を亡くしたのかもう解らない。
病気自体は彼女の様に苦しむことはない。顕著なのは体力の低下と、そして枯葉の様に赤い斑点が浮ぶ点だった。これは彼女の症状。
そしてこの病気の原因や治療法は全く解ってない。感染源どころかうつるものなのかも解ってない。
ただ最期はその名の通り枯落ち葉になってしまい、そこから魔物の卵が見つかる事だった。なので原因として有力なのは魔物により呪いや魔術の類。
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