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「すいません部隊長。この事も報告しなくてはなりません」
逃げている者を見ながら元戦士の彼は僕に向かってあたまを下げていた。
彼は恐れる事もなくそれからも任務として門番を続けた。褒めるべき事だ。なので僕はもうこれ以上彼に文句を言わないで、彼女の元に戻った。
「駄目だったんでしょ?」
戻ると彼女が僕の声を聞いていたみたいで心配そうな顔をしている。僕は返答ができなくて黙って彼女の事を抱きしめた。彼女の紅葉に染まった姿を見ていると言葉が無い。
残り僅かな人生の願いを叶えられず、僕たちはただ静かに日々を過ごすしかなかった。
丁度良いことに僕の外出も許されなくなったので食料が配給される事になった。そして薬を注文する人も居ない。もうこの国のお荷物になった。それでもこれまでの功績が有るから対応してもらえていると思うようにした。
「急に訪れたけど、こんな静かな余生を願ってたんだ」
もう随分と弱った彼女がいつもの池のほとりで呟いた。
「僕はこんな事にならない方が良かった。もっとずっと君の隣で一緒に居たいよ。この願いは叶うかな」
「私ね。思うんだ。この病気は魔物になるんだって。なら私たちはこれから魔物として生きる。彼らみたいな自然で人間と共存する魔物になりたい」
彼女は僕も病気だと気が付いていた。僕の腕を捲って紅葉を愛でながら語っている。もうその事については話さない。
「この病気は魔物を殺し過ぎた定めなんだと思うんだ。こんな風になるなら戦いたくなんてなかったな」
「そうだね。魔物と人間。共存はできるんだ。ならそれが一番良いのに」
僕たちはもう魔物を敵とは思ってない。凶悪な魔物も居るけれど、それはもしかしたらこの病気で魔物になった人が恨んでいるのかもしれない。多くの魔物たちは無害なのだから。
「それなら、魔物になるのも悪くないかもね。魔物になっても一緒に。僕は君の隣に居るから」
僕が彼女に話すと「うん」と彼女は僕の事を見つめて弱々しく返事をしていた。
「あまりお喋りをすると疲れるよ」
「なんだか、今日は気分が良いんだ。でも、ちょっと疲れたかな」
彼女はそう言うと静かになった。とても静かに。それからはもう目を覚ますことはない。
そして僕も急に眠たくなってしまった。これで終わりになるんだろう。こんな事が解っていた。彼女に合わせた手はどちらも真っ赤な葉に染まっていた。
静かに風が吹いていた。木からの落ち葉が舞う。僕たちが居たところにも真っ赤に染まった葉が積み重なって、そこには小さな鳥の魔物が二羽居る。
「これからならもう隣に」
軽い羽の音を聞いているとそんなのが聞こえてた。
おわり
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