枯葉病

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 これまで僕らはずっと戦って居た。戦士として魔物たちを殺して英雄と呼ばれた事だってある。だけどもう終わりにしようとなった。  若いころ程の体力なんてない。まだ年寄という年齢ではないが、戦いの場面になると弱い人間なんて必要ない。  共に戦って居た彼女と僕は一緒に田舎町の片隅に居を構えることにした。 「これからはのんびりと暮らそう」  僕の言葉は彼女との合言葉の様になった。  正直戦士として戦って居た時に稼いだ報奨金はかなりある。それに僕もだが、彼女は魔法の類が上手なので田舎町の薬師になれば生活に困ることなんてなかった。  命の駆け引きの戦いに疲れた僕たちに田舎町の空気はとても心地よい。これも僕たちの様な戦士が居るから平和が保たれているのだった。 「町に居る魔物は戦うほど恐ろしいのは居ないね」  買い物に出かけて彼女が町に居る魔物を見つけて話していた。  もちろん町にだって魔物は居る。でもそれはその辺の動物と違わない。人に危害を与える様なものは居なかった。 「この辺はかなり平和だからな。もうあんな世界なんて恐ろしいよ」  僕からの返事ものどかなものになっている。武器さえ持ってない生活になって魔物退治をしないのは楽でもあった。しかし、それ以上に僕たちの戦いは恐ろしいものでもあったんだ。  少ない仲間たちで戦う訳ではない。僕は国から部隊を預かり、その隊長として戦って居た。もちろん副長は彼女。その頃は二人とも今みたいなのとは雰囲気が違った。 「中央から敵をなぎ倒す! 怪我をしたものは捨て置け!」  とある戦いの一場面。部隊は千人以上が居たが、負傷者も多く僕は残りの隊員の命を重んじて、仲間を捨てた。  もちろん敵の魔物を殺して、殺し続けて敗走だった。 「両側から新たな敵が。部隊が分断されるよ。どうする?」 「出来る限りは救う。だけど、足切りの覚悟も必要だ。君には修羅の道を進んでもらう」  当然部隊と呼ばれるものだが、誰もが強者ばかりではなかった。魔物たちの攻撃に伸びて敗走する部隊が犠牲になっていた。  彼女と僕で両側の挟み撃ちにしようとしている敵から見方を守る作戦を立てた。簡単な事ではない。でも彼女の実力ならという考えも有った。 「死なないでね」「そっちこそ」  この時に僕たちはもう恋人同士だった。お互いの命を想いながらも僕らは戦った。  完全なる敗北劇。戦地を離れられた部隊は百数十人となっていた。それでも敵に負わせた損害も甚大。  逃げた地で一番に心配になったのは彼女の事だった。魔物の血で汚れてしまっている姿で彼女の事を探して回った。その時間がとても恐ろしかった。  彼女は生きていた。強い彼女は怪我もなく、命からがらの部隊員を魔法で治療していた。しかし、その彼女の姿も魔物の血で染まっている。  この部隊で魔物を多く殺したのは僕たち二人だったのだろう。 「もうこんな戦いなんて辞めよう」  再会して彼女を抱きしめた時の言葉だった。  負け戦からの引退なので国の魔物討伐部隊からは異議を唱える者も居た。しかし、それは僕たちのこれまでの功績も大きかったから。僕たちは国を代表する戦士なんだ。そんな者が居なくなったら戦力が落ちるから当然といえる。  でも、その功績のおかげで僕たちに味方をしてくれる人たちも居た。そして後輩たちも育っている。僕たちの引退は許された。
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