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Dは右足が疲れると今度は左足でこれから自分が進む道の安全性を確かめて進んだ。
二つ目の穴に遭遇した。
左足を地面に叩こうとしても、足は無力に空を切るだけだった。
敏感になっているDはさっと足を引っ込めた。一瞬にして抑えていた鼓動が早まり、頭皮から冷や汗が噴出した。それを着ていたスーツの袖で拭い、胸のどきどきが収まるのをまった。
焦る事はないと自分に言い聞かせる。だが、入り口で助けてくれた男は急いでいる用だったことを思い出した。
急がなければいけない何かがあるのかもと考えると不安は残る。悠長に構えていられなくなり足で木の架け橋を探す。入り口から真っ直ぐ歩いてきたと思ってきたが、人間は暗闇でどれくらい感覚のみで真っ直ぐ歩けるものなのだろうか。
正面にあると思った木が見つからない。今までは前方のみに気を張って、穴に落ちないようにしていたが、どうやら横に動かなければいけない。Dは同じ要領で自分の位置するところから右側の地面の有無を足で確認した。
右に三歩進み、止まり、今度は進行方向の地面を確認した。だがそこには地面も無い。まだ穴だ。地面を確認する足を左へ振ったとき、Dの履く革靴と木があたり「コンッ」と渇いた可愛い音がした。
瞬間的にぞっとした。右足にある感覚は大木の丸太のものではなく、ひどく軽いものだったからだ。
一歩左へ戻り、その木の正面であろう場所へ立ち、木の幅を足で調べた。両足がなれべられる程度の幅。「これを渡って行けっていうのか!?」とDはつま先だけ、木の架け橋に並べたものの、突然の難関に尻ごんだ。
「落ちたらどうなるんだっ?」それまで頭に浮ばなかった、当たり前の疑問が生まれた。足を引っ込め、地面に戻った。地面が暖かく感じる。「クソッ」と後退していられないという観念があって非常に焦る。追い込まれ始めて、だんだん寂しくなってきた。
暗闇にいるという非日常のことも気になり始めた。さっきの男は飄々と当たり前のようにしていたが、変だ。投げ出したくなってきた。いたずらに左足を前に出すと「コツッ」と木にぶつかった。「あれっ」とDは声に出した。
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