三角テントと穴

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七時を過ぎたので、いい加減帰宅する事にした。この日が水曜日で、好きな深夜番組を欠かさず見ていたのを思い出した。 世界の不思議な生態を特集する二十分番組を、映画を見るようにお菓子とその時の気分の飲み物をテーブルに几帳面に並べて放映されるのを待ち構えている姿を妻はこよなく愛してくれていて、いかなる喧嘩もDが無心になれる二十分はけっして妨害しないようにと決めていてくれた。 Dは家路を急いだ。本来ならば冷凍庫に豚肉があるので遅くでも開いているスーパーでなすびでもかって豚ナスの炒め物と昨日の晩に炊いた白飯を食べながらが理想だったが、料理をしていては放送には間に合わない。 駐輪場とは逆の方向にいる、頭でざっと計算しても徒歩で真っ直ぐ帰るのも、自転車を取りに戻るのも同じようにギリギリになるであろう。 Dは急ぎ足で帰った。まったく無駄な時間を衝動的な移り気でとられてしまった。 急ぎ足で家路へと急ぐ、予定より五分の貯金が出来たので、スーツから家着に着替え、冷蔵庫から冷えたビールとあまり物の冷やしトマトのつまみをテーブルにセットできるかも。 好きな番組を見る体制は整えられるかもしれないと考えると少し気分が上向いた。さらなる時間の貯蓄をするべく、近道になるはずと、知らない小道を躊躇なく入っていく。 Dの住まいは開発目覚ましい下町で、まだ数少ない高層ビルアパート。駅を降りてからどこからでも一目で発見できる。下町風情には似つくことない近未来の要塞のような建物は住民から嫌煙されている。  
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