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「三田村常務、捜しましたよ。後藤田部長が常務をお待ちです」
胃が痛くなる用事を思い出して、進藤に向かってうげっという表情を浮かべた。進藤は逃げるなというような目で睨んでくる。
「常務、お急ぎ下さい」
「進藤、わかったよ。そう睨むな」
彼女ともう少し話したかったが、仕方なく会議室を後にした。
夜は会長の代理で政治家のパーティーに出た。
「三田村常務、今度うちの娘と会ってくれませんか?」
「いや、うちの娘と会って下さいよ。父親の私が言うのもなんですが、美人で気立ても良くて」
そんな話を今夜も山ほどされて疲れた。
常務に就任してから、娘に会ってくれという話ばかりだ。結婚なんてこっちは全く望んでいないのに、押し付けられてうんざりする。
パーティーの後は、気分が晴れなくて、進藤といつも行くホテルのバーに行った。
ブランデーを飲みながら、チラチラと腕時計を見る進藤が可笑しかった。
「水原さんと約束でもあるのか?」
そう突っ込むと「いや」と言って、照れくさそうな笑みを浮かべた。そんな進藤が微笑ましかった。
「水原さんと順調そうだな。もしかして、もう一緒に暮らしてるのか?」
進藤が僅かに顔を赤くする。
「まだ一緒には暮らしていない」
「まだって事はそのうち一緒に暮らすのか」
「まあ。そうだな」
「水原さん、可愛いよな」
「ああ、可愛い。会社にいる時とのギャップがあり過ぎて困る。特に酒が入ると甘えて来て、そこがまた可愛いんだよな」
堅物の進藤が別人のような緩い表情を浮かべたから驚いた。常に眉間に皺を作っているような奴だったのに、変われば変わるものだな。
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