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04.黒豆は冬空の色に染まらない
「奏多、起きなさい。もうすっかり朝よ」
お母さんの声に、奏多は目を覚ます。部屋のカーテンが開かれて、ベッドから見上げる空は青い。どこまでも澄み渡った空。
「『かき氷だるま』は?」
枕元にクリスマスプレゼントが置いてあるのが見えたけど、それはあとまわしだ。ベッドから起き出した奏多は部屋を飛び出し、そしてベランダに向かう。
「奏多、どうしたんだ?」
「ねえ、『かき氷だるま』は?」
サッシを開いてベランダに飛び出す。青い空に朝の透明な光、そして冷たく冷え切った空気が、奏多を包み込む。
ベランダに『かき氷だるま』はいない。
「きっとね、溶けちゃったんだよ。昨日ほど寒くないし、『かき氷だるま』のあったあたりには太陽の光が当たってるだろ?」
お父さんが指さした先には水たまり。水に浸かった黒豆が三つ落ちていた。『かき氷だるま』の両目と口の黒豆。
青く透き通った冬空の色に染まる水たまりに風が吹き、水面に細かなさざなみが揺れる。雪の降らない南の町の空の色と一緒に。
「ありがとう。君のおかげで楽しく雪遊びができたよ」
奏多は水たまりに語りかける。そのとき、奏多の見つめる水面に『かき氷だるま』の顔が浮かぶ。また次の冬、一緒に遊ぼうと奏多に語りかける『かき氷だるま』の顔。奏多にはそんなふうに思えた。
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