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そんな奏多の姿をベランダに転がった黒豆の目が見つめていた。
『かき氷だるま』は知っている。
奏多はきっとサンタクロースを信じる心をもうすぐ失ってしまうことを。そしてまた、『かき氷だるま』のことだって、すぐに忘れてしまうことも。
やがて冬の日ざしに照らされて、水たまりも少しずつ消えてゆく。雪の降らない南の町。ベランダに残された三粒の黒豆に太陽の光が降り注ぐ。
黒豆は冬空の色に染まらない。ただ、忘れ去られていく。ベランダに舞い降りた鳥がついばむまでそこに転がったまま。
(おわり)
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