02.冬だけの余韻

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「部屋の中じゃ暖かくてすぐ溶けちゃうから、ベランダに出したらどう? 外の寒さの方がまだ溶けにくいと思うよ」  お母さんの言葉に、奏多は『かき氷だるま』の載ったトレーをそっと両手で持ち、注意深い足取りでベランダに出ていく。真冬の風が冷たい。夕方になり、太陽の光の量が弱まったせいもあるから。  お母さんが持ってきたコートとマフラー、それに手袋を身につけた奏多は、自分だけの『かき氷だるま』を見つめる。夕方の光を受けて、少しオレンジ気味に染まった、奏多だけの『かき氷だるま』。  それでも、真冬の風の中では雪だるまと変わらなくも見える。 「うん。こうやってベランダに出してみると、どう見ても雪だるまだな」  お父さんは自分の思いつきが成功したせいで、得意そうに『かき氷だるま』を眺めている。
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