忘れ愛、奪い愛

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 案の定私の私物はそれから毎日なくなっていった。  一日一つ。多い日は一日三つ。 「また、忘れもの?」  隣の菱倉が聞く。 「うん……」 「よかったら使って」 「ありがとう」  授業中に私の机に足りない物を見つけるたび、菱倉が私に自分の物を貸してくれた。  定規にコンパス、参考書、絵の具のイエロー……ほかにも諸々。  彼が物を貸す度、後ろからも矢萩さんが鋭くこちらを睨んでいた。 (変なの……嫉妬するくらいなら私からとらなきゃいいのに)  現に彼女の行いのおかげで菱倉とここ最近距離がぐっと近くなった。  自分がしたことによって私と菱倉の接点が増えていることに気づいていないのか。 (とんだ意地悪誤算キューピッドね)  私はいつの間にか菱倉に物を借りる時間が楽しみになっていた。 「しかし菱倉変わったなぁ。昔はあんなあだ名で呼ばれてたのに」  私と菱倉は同じ小学校だった。  小学生三年生の頃、菱倉はクラスメイトから“忘れものキング”と呼ばれていて、菱倉の机には毎回授業に必要な道具が欠けていた。  いつも何かしら足りない机上を見つめうつむく彼に担任がつけたあだ名は“忘れものキング”。  忘れものが多い彼に教師がつけた心ないあだ名のせいで彼はクラスの生徒からからかわれ授業中も休み時間も一人ぼっちだった。 「それが高校ではモテモテの王子様だもんなー」  廊下で女子たちに囲まれる菱倉を発見すると、視線に気づいた菱倉がこちらに向けて手を挙げた。  私に笑顔を贈る彼に私もこくりと控えめに会釈する。 「自作自演のくせに。ズル賢い女」  どうやら彼女は見逃さなかったらしい。 (でも……自作自演って?)  矢萩さんの言葉に違和感を感じた。
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