30人が本棚に入れています
本棚に追加
「……傘がない」
昇降口に着くと傘立てに置いた自分の傘がなくなっていた。
「ちゃんと傘立てに置いたはずなのに」
まさか傘までとられるなんて。
外は雨がザアザアと降り、コンクリートに落ちた雨粒が大きくとび跳ねている。
「とりあえず、俺の傘があるから、入って」
「うん、ありがとう菱倉」
菱倉は大きな紺色の傘を開くと隣に私を入れてくれた。
「うわすごい雨だな。こりゃヤバいかも」
「ごめんね」
「なんで内山が謝るんだよ。そうだ。内山家遠いだろ」
「うん、けっこう遠いかも……」
「俺の家近くだから雨宿りしていけよ。着替え貸すから」
雨に濡れないようにと肩に腕がまわされる。
自然と身体が密着する。
片肩に彼の体温を感じ、寒々した冬の雨の中なのに、鼓動は早鳴り、身体は火照っていた。
菱倉の家に着くと、彼は部屋に私を通し着替えを渡した。
「スウェットしかないけど。つーか俺ので悪い」
「ううん。ありがとう」
「俺、向こうで着替えてついでに飲み物持ってくるよ。コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「菱倉に合わせるよ。どっちの気分?」
「気分って面白い表現。んじゃコーヒー」
「じゃあ私もコーヒーで」
「オッケー。少ししたら持ってくるから」
ぱたん、と部屋の扉を閉められた。
最初のコメントを投稿しよう!