忘れ愛、奪い愛

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「……傘がない」  昇降口に着くと傘立てに置いた自分の傘がなくなっていた。 「ちゃんと傘立てに置いたはずなのに」  まさか傘までとられるなんて。  外は雨がザアザアと降り、コンクリートに落ちた雨粒が大きくとび跳ねている。 「とりあえず、俺の傘があるから、入って」 「うん、ありがとう菱倉」  菱倉は大きな紺色の傘を開くと隣に私を入れてくれた。 「うわすごい雨だな。こりゃヤバいかも」 「ごめんね」 「なんで内山が謝るんだよ。そうだ。内山家遠いだろ」 「うん、けっこう遠いかも……」 「俺の家近くだから雨宿りしていけよ。着替え貸すから」  雨に濡れないようにと肩に腕がまわされる。  自然と身体が密着する。  片肩に彼の体温を感じ、寒々した冬の雨の中なのに、鼓動は早鳴り、身体は火照っていた。  菱倉の家に着くと、彼は部屋に私を通し着替えを渡した。 「スウェットしかないけど。つーか俺ので悪い」 「ううん。ありがとう」 「俺、向こうで着替えてついでに飲み物持ってくるよ。コーヒーと紅茶どっちがいい?」 「菱倉に合わせるよ。どっちの気分?」 「気分って面白い表現。んじゃコーヒー」 「じゃあ私もコーヒーで」 「オッケー。少ししたら持ってくるから」  ぱたん、と部屋の扉を閉められた。
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