百鬼夜行

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「た、立てるかい蟻塚くん!館に行けば治療ができる!」 「大丈夫だ……俺はこのくらいじゃ死なないよ……それより」 蟻塚は指を夜叉を指さした。 敵は紫のローブを身に纏い、傷を癒している。 力だって増していくのだろう。 「俺はしくじった、尻ぬぐいをしてくれよ」 「でも……」 「君の役目はなんだ?今なら分かるだろう?」 「……ごめんね、蟻塚くん」 「謝るなら全部終わってからにしてくれ」 天蘭は血まみれになった手を彼から離した。 刀を強く握り、夜叉に切っ先を向ける。 「待ってて。すぐ終わらせる」 「ああ」 天蘭は叫びながら崩壊から立ち直ろうとする夜叉を斬った。 上から真っ直ぐに太刀を入れて、体を真っ二つにする。 すぐさま回転蹴りで首を跳ねた。 夜叉の首は宙を飛ぶ。 彼女は最後まで気を抜かず、肉眼では見えないほどの剣技を披露した。 斬り刻まれる夜叉の首は、細切れになって夜空に消えていく。 頭のない体も項垂れて、その体を溶かしていた。 「はぁはぁ……」 「やったのかい?」 「ああ、すぐに君の手当てを……」 蟻塚と天蘭は唖然とした。 空を見上げたからだ。 黒いはずの空は、紫色に覆われている。 夜叉が集めた怨恨のオーブだ。 オーブは雨のように敷地に降り注いだ。 そして首無しの夜叉を包む。 「冗談だろう……」 「蟻塚くん……」 天蘭は弱弱しい瞳を彼に見せた。 理解してしまったのだろう、自分たちが敗北したことを。 オーブによって力を取り戻した夜叉は、メキメキと音を立てながら頭と右腕を再生させた。 今までのダメージなどないように鷹揚に剣を持ったまま立ち上がる。 この場所に蔓延しているオーブは大量の霊に姿を変えて、嫌らしく笑い始めた。 「諦めたくないよ……蟻塚くん」 「なら諦めなければいい……」 裂かれた腹の痛みに耐えながら蟻塚も立ち上がった。 ドクドクと横腹から血が流れている。 「すまない……」 「いいって」 蟻塚の視界がぐらついた。 意識も遠くなっていく。 「ああくそ……やべぇな」 「そこで待ってて、蟻塚くん」 「俺も戦うよ……1人にしないでくれ」 「ううん……君は十分頑張った。本当に頑張った……あの世でさ。また会えるといいね」 「ちょっと待ってくれ……天蘭さん」 息も絶え絶えに蟻塚は彼女に手を伸ばした。 天蘭は覚悟を胸に焼き付けて、復活した夜叉に突っ込んだ。 懸命に刀を振ったが、もう夜叉には通じなかった。 力を増した敵の一刀のもと、胸から腰が斬りつけられる。 その場で天蘭は呆気なく膝をついた。 握っていた小刀さえ落とす。 もう戦闘は不可能だ。
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