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「家までお送りします」
「やかましい。俺はどこにも行かない」
病院の部屋で蟻塚は腕を枕にして天井を見上げていた。
あれから1週間経った。
蟻塚の傷は塞がり、自由に動けるようになったが彼はここを出る気はなかった。
彼の監視役である大石も、彼の扱いに困っている。
「ですがご当主様の命令なのです。傷が癒えたらあなたをお家まで送り届けるようにと」
「うるさい。入院費とか治療代は払う。俺はどこにも行かん」
「ですが……」
「それより天蘭さんは大丈夫なのか?」
「ええ。一命はとりとめました。意識もはっきりしています」
「なに!なんで早く言わない!彼女の病室に案内してくれ!」
「しかし彼女はまだ意識が戻っただけでして……」
「……なら仕方ない。元気になるまで待つか……でもよかった」
「あの……蟻塚様?」
「大石さん。暇なら食べ物買ってきてくれよ。1階のコンビニで弁当5つ買ってきてくれ」
「ですがご当主様の命令が……」
「そんなもの知ったことか!」
「元気だね、蟻塚くん」
「天蘭さん!?」
病室に入ってきて声をかけたのは天蘭だった。
まだ顔色が悪く、点滴棒を持っているがそれでも彼女は生きている。
「よかった!元気になったのか!?」
「麗様!ダメですよ部屋で安静にしてないと!」
「大石さん。彼と2人きりで話をしたいです。席を外してもらえませんか?」
「何を言っているのです!さあ早く部屋に戻ってください!」
「破門になった私の命令を聞く義理はないと?」
「そういうわけではありませんが……」
「いいから出て行ってくれよ。それとも俺が放り出してやろうか?」
蟻塚は大石に顔を近づけて凄んだ。
大石の顔が引きつる。
「安心してください。長くはかかりません。ほんの数分ですから」
「わ、分かりました……すぐ近くにいますから何かあればすぐに呼んでください。」
大石は退室してドアを閉めた。
ベッドに腰掛けた天蘭は、蟻塚の顔を撫でる。
「また会えたね」
「ああ!すっごく嬉しいよ!無事でよかった……」
「……私もだよ。君が無事でよかった」
「俺の体は頑丈なんだ!あれくらいで死なないよ!」
天蘭に会えてすっかり有頂天になっている蟻塚を見て、彼女は微笑んだ。
「これからのことを話していいかい?」
「え?……うん、何?」
「私は天蘭家を破門になった。君とはもう会えないだろうね」
「な、なんで?別に破門になっても関係ないよ。一緒にいよう」
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