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「だから……幽霊だよ。佐々木さん幽霊になんかされたんじゃないのか?」
青木は鼻で笑った。
蟻塚は話を続ける。
「やっぱり帰ろうよ、ここやばいって」
「帰りたきゃ歩いて1人で帰れよ」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろう。何かあった後じゃ遅いんだ」
「情けねぇ……お前女かよ。ぴーぴーぴーぴーうるせぇやつだ」
「なあ佐々木さん」
佐々木さんは考えるように顎に手を当てた。
「まあ……蟻塚の言うことも分かるがここまで来たんだ。最後まで行ってみよう」
「……やめたほうがいいのに」
呟くように蟻塚は反論した。
蟻塚の不安を無視するように、車はどんどん先に進んでいく。
山の坂道を上る。
ライトが照らす道は酷く凸凹で、タイヤが軋み車体が揺れる。
暗い木々を抜けると、小さな鳥居の前に到着した。
「ここだな」
「ああ、車から降りよう」
佐々木たちは車から降りた。
蟻塚は降りたくなどなかったが、1人で車内に残っているほうが怖い。
勇気を出してドアを開けた。
「へぇ、雰囲気あるな」
加藤が間の抜けた声で言った。
ボロボロで塗装も剥がれている鳥居に触れる。
「これは本当に出そうだな……俺も怖くなってきたよ」
「何ダサいこと言ってんすか。こんなの屁でもないですよ」
勇気ある青木はどんどん前に進んでいく。
鳥居の先に本殿や賽銭箱などはない。
ただちょこんと小さな祠があった。
「何を祀ってるんだろうな」
4人は祠に近づいた。
蟻塚は佐々木の背に隠れながら顔を出し、得体のしれない祠を眺める。
「ほ、ほら……もう十分でしょ?帰りましょ」
「ちょっと待てよ蟻塚。しかしここに彼女連れてきても反応はよくないだろうな」
「ああ、もうちょっと何かあると思ったけど……ここに誘うのは無しだな」
「定番の廃屋とかにしといたほうがよさそうだ」
「だな」
佐々木と加藤は淡々とデートプランの変更の意見を出し合っている。
ひとしきりこの場を調べて、「帰ろうか」という一言が佐々木の口から出た。
その瞬間蟻塚は胸を撫で下ろしてため息をついた。
ようやくこの不気味な場所から離れられるのだ。
誰よりも早く車に近づいた蟻塚が急かすようにほかの3人に声をかけていると、突然何かの破壊音が静寂に響いた。
「何やってんだお前!!」
加藤が叫んだ。
蟻塚は急いでみなのもとに戻る。
そして唖然とした。
何かを祀っていた祠が無惨にも破壊されていたのだ。
「な、なんで壊れてるの?」
「青木が壊しやがったんだ!!」
「はぁ?」
思考の追いつかない蟻塚は、信じられないと言った目で青木を見た。
苛立ちげに石を手に持っている青木が地面に唾を吐き捨てる。
「うるせぇよギャーギャーギャーギャー!腰抜けどもが!ふざけやがって俺の時間が無駄になったじゃねぇか!こんな面白くもない場所に連れてきやがって!」
「お前何したのか分かってるのか!?」
「いちいち喚くなボケ!ふざけんなよ!蟻塚の息子はヘタレだし、運転も出来ねぇやつのせいで散々な目に遭うし!寒いし楽しくねぇし!イライラさせんな馬鹿どもが!!ああクソ!!」
青木は手に持った石を地面に投げつけた。
彼の行動と思考が全く理解できない蟻塚はただ立ち尽くすことしかできない。
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