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天蘭さん
「なあ……本当に行くのか佐々木さん」
「ここまで来て何言ってんだよ」
蟻塚壱は不安げに顔を歪ませた。
黒の普通自動車には蟻塚含めて4人乗っていた。
車は市街を離れて山の近くを走っている。
外はもう真っ暗、街灯の数も少なく窓の外は現実とは思えないほど見通せない。
「嫌だなぁ……怖いなぁ……」
「しゃきっとしろ蟻塚、ウダウダ言うんじゃねぇ」
「ウダウダも言うさ、俺は肝試しなんてしたくないんだよ?」
「肝試しじゃねぇよ。下見だ」
「下見って佐々木さんと加藤さんのデートの下見でしょ?女の子を誘うためだったっけ?俺には関係ないよ」
「そんなことないぞ。お前も一緒に女の子連れてくればいい。格好いいとこ見せられる」
「俺彼女いないし」
「じゃあ好きな子を誘え。幽霊が出るって言われている場所に毅然とした態度で男がリードしてみろ?女はメロメロだぞ?」
加藤はゲラゲラと笑っている。
蟻塚はさらに顔をしかめて、後部座席で自分の隣に座っている男に話しかけてみた。
「青木くん……だったよね?大丈夫?」
「は?何が?」
軽くドスを効かせて青木は蟻塚を睨みつけた。
彼らは今日初めて顔を合わせた。
話によると加藤の後輩で、蟻塚と同じ高校2年生だ。
学校は違うが同い年なので蟻塚はなんとか仲良くなろうとしたが、どうやら彼は蟻塚に敵意を持っているようだ。
彼は薄汚れた金色の長髪をかきあげる。
「あー……おばけだよ?怖くない?」
「別に、あんた怖いの?」
「まあね」
「情けねぇ」
「え?」
蟻塚はびっくりした。
彼を怒らせるようなことを何かしただろうかと考えてみるが、思い当たる節がない。
青木は苛立ち気に貧乏ゆすりを始める。
「なあ加藤先輩、本当にこいつが蟻塚次郎の息子なのか?」
加藤は失礼にも蟻塚を指さして吐き捨てた。
「あ、ああそうだけど……どうかしたか?」
「がっかりっすよ、あの『ビッグアントジョー』の息子に会えると思って楽しみにしてたのに。こんな図体ばかりのヘタレなんて」
「おい青木……」
「こんなやつ俺の学校じゃ3日も持ちませんね。おいコラ、聞いてんのか?お前に言ってんだぞ」
敵意を剥きだしにして噛みつく青木に、蟻塚は熊のような体を縮ませる。
「俺お前みたいなやつが1番ムカつくんだよ。どうせ親の七光りとその図体で今まではったりかまして生きてきたんだろ?俺には通用しないぞ、なんなら今から外出てやるか?」
「なあ青木くん……俺は別に君と争いたいわけじゃない。争いは嫌いなんだ……だから仲良くやろうぜ」
青木は素早く蟻塚の頭をはたいた。
蟻塚は口をへの字にして叩かれた箇所をさする。
「おい青木!」
「うるせぇ!何が仲良くだ!舐めてんのかコラ!?タイマン張るか!?」
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