皮膚の下の牙

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皮膚の下の牙

 暗がりで蜘蛛に噛まれた。恐らく毒を持っているもの。薬指に痛みが走って思わず掻いてしまったら指の間を蹴ってなにかが走り去る。皮膚の下に鋭いものが入り込む。それからというものそこが痛痒くて堪らない。水で流して消毒をしてピンセットで毒牙を抜こうとするが上手くゆかない。その日の夜は諦めて眠りについたが酷く凍えて酷く疼いた。翌日明るいうちにもう何度か挑戦したけれど牙はどんどんどんどん奥へゆく。周囲が赤く腫れている、水疱がいくつか出来て何個か潰れている。病院を思い起こす、白い壁、青い長椅子の待合室。軟膏を塗ってガーゼで包み痛みが消えるよう蓋をする。あれから数日経つ。腫れは引いた、水疱も消えた、けれどいつまで経っても熱が冷えない。探しても探しても私の部屋に蜘蛛は見当たらない。片牙の蜘蛛が見つからない。見つけられない。  黒い牙がこの薬指に入り込んでしまったまま、ずっとそこに、遺ったまま。
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