「瓶詰め怪物」

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「瓶詰め怪物」

きっと誰の胸のうちにも、そいつはいて。 生まれつき、色んな種類の色んな性質のやつが、自分と一緒に育っていく。 首輪やリードをつけたり。 躾が上手く行ったり。 たまたま、大人しいコだったり。 中には全然気配のないのもいたりして。 そいつは、飼ってる子供の「性格」に影響を与えたり、与えなかったり様々で。 ひた隠しにできる子供もいるけど。 そいつの方が、強く外に出てきてしまう子供もいる。 環境や、関わる人間とのやりとりで、コロっと可愛らしく懐くこともある。 逆に、酷く醜悪で、怒りや哀しみや憎しみだけの、腹をすかせた狂暴なやつにもなる。 そんなの、手に負えない。 私が飼っていたのは、後者だった。 だから、まるでそんなおまえも受け入れるよ、って優しくて慈愛に満ちた顔をして。 お腹をいっぱいにしてあげる、と微笑んで。 両腕を広げて、寒いでしょう、抱いているわ、さあおいで、と、ゆっくり近寄った。 私は、そいつが警戒心をといて、胸に飛び込んで来る瞬間に。 ずっと凍りついていた、心の氷を割って継ぎ接ぎだらけで作り上げた瓶の入り口を。 サッと用意して、閉じ込めた。 そんなモノは、本当だったら易々と壊せたはずなのに。 私の怪物は信じたの。 ここがあたたかな私の胸の中で。 受け入れられたと、存在を許されたと。 それから、クーン、と一鳴きして。 体を丸めて冬眠してしまった。 私の怪物は、信じたの。 ごめんなさい。 思い出すまでに、ずいぶんと時間がかかってしまったわ。 あなたは、愛しい私の怪物。 あんなにも、私と共に成長したいと。 そう願っていたのにね。 仲良しだったり。 守ってくれたり、 敵を追い払ってくれた時もあった。 どんな時も、私を愛してくれたのに。 戦いの時。 今更、なんて都合が良いのだろうと。 さすがに顔向け出来ないと。 そうも思った。 でも、おまえが必要だったよ。 私は、かたく閉ざした瓶の蓋を開けた。 忘れ物、失くした感情。 取り戻せたから、私は、勝てた。 大好きよ、大切な、私の中の最高のタイガー。
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