私は私を忘れて私になる

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「…………京華ちゃんとの時間が忘れられなくてさぁ〜。でもちょっと雰囲気変わったよね。」 見向きもしない私に構わず男は一人喋りながら鼻の下を伸ばして頬を赤らめている。 その表情で“京華”の“客”なのだろうことは容易にわかる。 ただ、今の私は京華ではない。 京華なんて私、私は知らないのだ。 どこまでも着いてくる男にだんだん鬱陶しくなり足を止めて男を見遣る。 「わたくしは京華なんて名前でもないし、アナタなんて知らないわ。金輪際近寄らないで頂けないかしら?」 男は私の顔を凝視してポカンと口を開けた。 間抜け、それがピッタリな表情。 言うだけ言って立ち去ろうと歩き始めれば、我に返った男はまた追いかけてきた。 「あっ待ってよ〜京華ちゃ〜ん。」 「京華ちゃんどうしちゃったの?別人みたいになっちゃって。僕のこと忘れたの?あんなに甘えてくれてたのに〜。」 男は矢継早に“京華”の情報を教えてくれる。 『はぁ〜。 いつの私か知らないけど、客は選びなさいよ!』 私は忘れてきたいつかの私に内心ため息をこぼす。
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