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「ずいぶんと他人行儀な挨拶だな。彩愛(あやめ)。」
顔を上げた先には、お子ちゃま男の肩を掴んだ時の刺すような視線を私に向けた男がいた。
『あぁ…。凶だったか…。』
それでも私は知らない男にお子ちゃま男と同じ対応をするだけだ。
「あの、わたくしは柴田朱音(あかね)と申します。助けて頂いたことですし名乗りますが、人間違いされていらっしゃるのでは?」
十中八九、忘れた過去の私と何らかの関わりがあることが明白な男にそう告げた。
「婚約者の顔を忘れるとでも?」
さっきまでの紳士然とした態度はどこへやら。
「お前は間違いなく大和彩愛。俺の婚約者だ。」
仕立ての良いスーツのズボンのポケットに手を突っ込み、ガードレールにもたれ掛かり自信満々な表情の男は、傍から見ればそれはそれは眩しいほどのイケメンに見えるだろう。
が、いかんせん今の私にはお子ちゃま男よりも厄介な男でしかなかった。
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