私は私を忘れて私になる

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「…そう。じゃあ教えてあげる。私があなたを知らない理由。あなたの提案に乗ってここへ来た理由を。 私は私を忘れるの。故意的に、ね。そしてまた私になる。 過去の私の記憶も忘れるわ。だから今の私はあなたを知らない。 あなたはわかってるんじゃなくて? 私が彩愛と違うこと。」 私が忘れた彩愛と私が別人のように見えることは理解していた。 それはあのお子ちゃま男のように偶然再会した男たちが私に教えてくれた。 「…確かに目の前のお前と彩愛は表情も口調も性格も違うようだが、演じようと思えばいくらでも可能だ。悪女ならな。 お前は故意的に自分を忘れると言ったな。それは多重人格ということか?」 私の話を聞きながらも話を整理していたようだ。 「いいえ。多重人格とは違うわ。でも演じるって言うのは遠からず近からずって所かしらね? 理屈はわからないけど、私の意識で私は私を忘れることができるの。 ただ演じることと違うのは、私は忘れた私のことを何一つ覚えていないわ。 もし今、私が忘れようとすれば、目覚めた瞬間から私は何もない真新しい人生をそこからスタートさせることができるの。私じゃない誰かになって。 これが、私があなたを知らない理由。」 「…そして、ここへ来た理由は…。 唯一、私は大和彩愛を覚えている。」 一旦切って来た理由を話せば藤乃井蒼士の目は見開いていく。 「……じゃあ、彩愛に戻れるのか?」 藤乃井蒼士は見開いた目を更に大きくし食い気味に聞いてきた。
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