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「…いつかはね。私が彩愛を覚えているのも彩愛がオリジナルだから。
でも、性格や仕草なんかは知らないわ。
知っているのは名前とオリジナルであることだけ。
その彩愛がいつの間にか婚約までしていたことに驚いたわ。
それだけの期間、オリジナルでいたってことだもの。
そこに興味を持っただけよ。
あなたなら何か知っているかもと思ってね。
だけど、何も知らないみたいね。」
そう言って私はソファーから立ち上がった。
彩愛がオリジナルでも何も知らない婚約者にはもう用はない。
「…どこへ行く?」
エレベーターへと足を向ける私を追いかけるでもなく、ソファーに座ったまま藤乃井蒼士は声をかけてきた。
「帰るのよ。」
「帰すと思うか?」
私は立ち止まり半身を捻った。
「あら、帰さないつもり?私は彩愛じゃないわ。彩愛が姿を現すかはわからないのよ?
それに、なぜ彩愛はあなたの前から姿を消したのかしらね?
私を引き止めても無駄よ。」
私は彩愛が姿を消した理由はあなたにあると暗に言った。
藤乃井蒼士は苦虫を噛み潰したような表情で目を伏せた。
その顔はどこか傷ついているようにも見えた。
私はニヒルな笑みを浮かべまた背を向けた。
「お気の毒だから、一つ教えてあげるわ。
私が意識すれば私は私を忘れる、他の誰かになるのよ。
今のところ私はまだ私を忘れるつもりはないけど、彩愛はオリジナルよ。
確証はないけど彩愛が戻ろうと思えば戻れるんじゃないかしら?
じゃあ、せいぜい頑張って。藤乃井蒼士さん。」
背中越しにそれだけ言うと、今度こそその部屋を後にした。
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