1つ忘れる場所

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 「ふーっ…」 僕は便器に座るなり、小さく息を吐いた。 「ふっ」 そのままお腹に力を入れた。ブルッと身体が震える。 「ふっ」 そして再び力んだ。  少し便意が落ち着き、ふとトイレットペーパーホルダーの方を見た。そこには使い古された手帳が置いてあった。 「誰か忘れて行ったのか。」 そう呟きながら、何気なく手帳を手に取り、開いた。パッと開いたページから、一枚の写真が落ちた。 「おわっと。」 慌てて床に落ちる前に手ですくった。安堵で胸を撫で下ろしながら写真を覗くと、そこにはまだ一歳そこらの子が母に抱かれながら写っていた。 「かわいいな。」 多分これの持ち主はこの子の父親なんだろう。  写真を元のページに戻し、他のページを開いた。  その手帳には持ち主が父親になるまでの軌跡、そして子供の成長が記されていた。子供の名前、出産予定日、必要になるベビー用品のメモ。ページをめくると子供のことが、生まれてきたこと、寝返りをうったこと、笑ってくれたこと、ハイハイしたことが事細かに記されていた。 まさに、親の愛を感じるものだった。  …僕の父もこんな感じだったのだろうか。こんな風に愛してくれていただろうか。いや、あの父に限ってそんなことはない。  
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