SWEET PAIN : Twenty-Years-Old Boy ~ 二十歳の少年

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 解散後、二次会の話題も出ているのは知っていたが、僕は誰とも口を聞かず、会場の外に迎えに来ていた母の車に揺られて家に戻った。  もうこの時の母は父と離婚していたから、厳密に言えば実家ではなく、母の家の方だった。  夕食には、尾頭付きの鯛の塩焼きが出た。  目を見張る僕に母は「スーパーの総菜コーナーにあったから」と少し照れたように言ってから「おめでとう」と付け足した。  母は父のいる家を飛び出してから、決して楽ではなさそうな暮らしぶりだったが、そんな母の見せた気遣いに、昼間の出来事で不快な思いで満ちていた僕の心がぐらついた。  母の家には電子レンジがないこともあって、その鯛の塩焼きはすっかり冷めきり、箸先でほぐせないほど身は固かったが、僕は涙がこぼれ落ちそうになった。              (了)
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