SWEET PAIN : Twenty-Years-Old Boy ~ 二十歳の少年

1/6
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「君、誰だっけ?」  ヨシキがそう言うと、周りにいた振り袖姿の女たちが一斉に笑った。  思わず僕は目を閉じた。彼の言葉は本気とも冗談ともつかなかったが、果たして僕はどんな顔をしていただろうか。  腹立たしさと寂しさがないまぜになって、僕の胸に渦巻いていたが、こういう場だ。表情を押し隠そうとして内心躍起になっていた。  再び目を開け、僕がそのまま何も言わずそこを立ち去るまで、とうとう誰一人として僕の名前を呼んだ者はいなかった。  僕は、実はこの日の式典及び懇親会に参加するかどうか、当初は迷っていた。  成人式は、中学校三年のときの同級生と当時の恩師である教師たちが一斉に会する場となっていた。  前年のうちに郵送で届いた案内書には返信用の葉書が添付されていた。  参加にチェックを入れ投函してしまうと、その後の心境の変化や多少の事情を理由にして欠席に転ずることは許されない気がして、息が詰まりふさぎ込んでしまった。  式典前日のうちに僕は自分の通う大学のそばで間借りをしていた祖母の家を出て、地元にある母の家に移っていた。  当日は前の晩から降った雪が積もっており、そういった重い心を引きずり着慣れないスーツを身に着けて、やっとのことでたどり着いた会場で受けた仕打ちに、僕はすっかりささくれ立ってしまった。 (所詮誰からも、どうでもいい奴だったんだな、僕は)  そんなこと、来る前から分かっていたのに。  五年前、あの教室にいたときから僕は、十分に感じ取っていたのに。 何を今さら。  僕は、それから誰とも目を合わせないようにしていた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!