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背中で、キミヨの笑い交じりの大きな声がした。
彼女はヨッコとは一番仲の良かった友人だった。おそらくそのそばにヨッコもいるのだろう。
ヨッコは、端的に言えば僕が好きだった女性である。
僕が彼女を好きになる前まで、彼女は僕のことが好きだった。
かつて、そういうすれ違いに僕が深く悩ましく思った相手であった。
それで、僕はなおのこと、頭を低くした。
懇親会を始めるにあたりスピーチした元学年主任の教師だったカトウが、乾杯の音頭を取ったが、友人のカズユキが別クラスだったこともあり、僕は誰ともグラスを合わせないまま一口だけビールを飲むと、会場の壁際に並べられた椅子に座って俯いていた。
懇親会は、クラス会の様相で、酒も手伝い大変なにぎわいだった。
各々スーツを決めた若い男たちと、華やかな振り袖姿の若い女たちが大騒ぎしていた。
既に結婚し、出産まで済ませたのだろう。小さな子どもを連れた元同級生のユカがふと目に入った。彼女は友人らに囲まれて、顔を真っ赤にして笑っていた。
誰にも気を留められず、そのまま一時間近くをやり過ごすと、御開の声が聞こえたので、ようやく腰を上げた。
壇上には、再びカトウが立っていた。
「最後になりますが、ここで大事なお知らせがあります」
会場が、しんと静まり返った。
「この場に来られなかったC組のヒワタシユウヤ君のことです」
ユウヤは、隣のクラスの男子生徒だった。
僕は二年生の時に彼と同じクラスで、学校でも荒れて乱暴を働くこともある生徒グループの一人だった。
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