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施しはするけれど
さて、こちらはリオの家に美味しいパンとベーコンを分けてくれた大きなお屋敷の奥様の家。
奥様達のお茶の時間も終わり、みんなそれぞれの家に帰っていった。
大きなお屋敷の旦那様は、ご自分のお父様やお祖父様からの代からのお金持ちで、土地を国に貸していたのでお金には困らなかった。
現在のように国が荒れてしまってからは、持っている広大な土地で畑を作り、牛や豚、鶏を飼い、自分で食べるものは自分で作れるように専門の職人を雇って、食べるものにも困らない生活をしていた。
大きなお屋敷では、部屋を綺麗にするメイドさんや、ご飯だけを専門に作るお台所のメイドさんなどがいて、お掃除のメイドさんは奥様の支度や、お子様の面倒を見るお仕事も手分けして仕事をしていた。
お屋敷にメイドさんとして勤められるのはその頃のお勤めとしてはとてもラッキーだった。住み込みなので、家にはなかなか帰れないが、食事も出るし、寝るところもあるのだ。
それだけに、よく気が利き、多少見栄えも良く、性格の素直な者しかお屋敷では働けなかった。
特に、この大きなお屋敷では旦那様が人に意地悪をしたり、妬み、嫉みなどの心を持つものを嫌ってそういった様子が見えたメイドさん達はすぐに辞めさせられたので性格の良い者しか働いていなかった。
お屋敷でのお食事は、まず、奥様や、旦那様、お子様が大きな食堂のの食卓で最初に召し上がる。
その片付けが終ると急いでお台所以外のメイドさんが賄いを食べる。食事の準備や後片付けは全部お台所を専門に仕事をするメイドさんがする。
お台所を専門に仕事をするメイドさんは、お部屋のお掃除や、奥様や旦那様、お子様のお世話をするメイドさんが賄いを食べ終わった後、やっと、自分たちも賄いを食べ、すべての食器を片付けないと眠れないのだ。
そのかわり、奥様や旦那様のお世話をする係のメイドさんは賄いを食べた後、奥様や旦那様が眠るまで、ナニーと呼ばれる子守のメイドさんはお子様を寝かしつけないと自分たちの時間は持てないのだった。
施しをしたその日の大きなお屋敷の夕食の様子だが、いつも通り食卓には食べきれないほどの料理が並んだ。
前菜、スープ、ホカホカのパンに、メインの、今日はお魚料理、グリルされた野菜、デザートのフルーツ、ケーキ、アイスクリーム。
奥様のおかげで、いつもより沢山のパンとベーコンのおかげで、幸せに満ちた貧しいリオの家とは違い、なんだか奥様はさみしそうだった。
奥様には子供がいなかった。
本当は夕食も旦那様と二人で食べる筈なのだが、旦那様はいつも社交界のお付き合いが大切だと言って、外でお食事をとってくる。
奥様はまだ旦那様と一緒に社交界のパーティーに行かれるほど体も心も元気になっていなかった。
いつでも一人で食事をするのでまったく面白くない。
楽しいおしゃべりも微笑みあいもなく、独りでテーブルについてするお食事は、どんなに豪華なものでも美味しく感じないのだった。
せっかくお台所のお手伝いさんが工夫をして綺麗に飾られた美味しいお料理もどのお皿も一口ずつしか手が付けられていない。
「ごちそうさま。私はお風呂に入るから支度をして頂戴。」
そう言い残して食卓を立った。
奥様のお世話をする二人のメイドさんが残り、洗濯場のメイドさんにお風呂用のお湯を用意する様頼んで、奥様のお風呂を準備しに走った。
奥様はお風呂に入りながらそっと湯気に隠れて涙を流した。寂しかったのだ。
旦那様だって子供がいれば家にもっと興味を持ってくれただろう。最初の子供ができた時には大喜びしてくれたのだから。
残念ながら最初の子供はお腹の中で死んでしまった。女の子だった。その時に、もう子供はできないでしょうとお医者様に言われていた。
2年前の事だった。奥様はまだ25歳なのだ。
旦那様が家に帰らなくなったのはそれからだった。
それから二日後。
先日、物乞いに来た兄妹がまた現れた。
リオはこの前言われたとおりに玄関に直接行った。
その日も奥様は別の奥様方とお茶を飲んでいた。
奥様はお台所のお手伝いの優しいお姉さんに
「パンを二本とベーコンをあげなさい。」
というと、リオに向かって聞いてきた。
「ねぇ、あなた名前は何て言うの?」
リオはポカンとした。奥様から直接話しかけられるなんて思ってもみなかったのだから。
「リ、リオです。」
「そう。リオ、あなたは何かお料理を作れるの?」
「野菜のスープなら作れます。切って煮るだけなので・・・」
そこにパンとベーコンをもってお台所の優しいお姉さんのメイドさんが戻ってきた。
奥様はお台所のメイドさんに聞いた。
「今晩のメニューに差し支えないくらいの野菜は余っている?」
「もし、余っているのなら、野菜スープが作れるように野菜も分けてあげなさい。」
「いい?リオ?ベーコンを少し野菜スープに入れると美味しいスープになるわ。お塩入れなくていいわよ。野菜と一緒にベーコンを少し煮込みなさい。」
と、スープの美味しい作り方まで教えてくれた。
お台所のメイドさんのお姉さんが、玉ねぎやニンジン、ジャガイモをリオが持てるくらいの量を袋に入れて落とさないように持たせてくれた。
リオは、心から嬉しいと思った。お台所のメイドさんのお姉さんに促される前に
「奥様、本当にありがとうございます。お母さんは、この前頂いたベーコンを食べたら少し元気になったんです。今日はスープもあるからもっと元気になると思います。」
と、心からお礼を言った。小さい3歳の妹もボロボロのスカートのすそをつまんで奥様にお辞儀をした。
奥様はそのかわいらしいしぐさに思わず小さく微笑んだ。
周りの奥様達はこの前と同じように奥様を褒めていた。
一緒にいた奥様の中には、大きなお屋敷の奥様を見習って浮浪児や物乞いに来る子供たちに施しをするようになった奥様もいた。
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