リオの家で

1/1
前へ
/12ページ
次へ

リオの家で

 大きなお屋敷の奥様から教わった通りに、リオは野菜スープに少しベーコンを入れて煮込んだ。  このところ野菜も手に入らなかったので久し振りの野菜スープだ。  スープを作っておけばお母さんも温めるだけで食べる事ができるし、1歳のアンナも野菜スープだったら野菜を潰してやれば食べる事もできる。それにパンを浸してやればパンだって少しは食べられる。  5歳のアネッサも3歳のアニーも痩せていてガリガリだし、元々沢山食べ物を食べたことがないので一回の食事でも少しずつしか食べられない。  中でも生まれたばかりから母親の具合が悪かったアンナはまだ赤ちゃんだと言うのに眼ばかり大きくて表情もあまりない。息をしているのがやっとな状態なのだ。栄養をとらせなければきっと長くは生きられないだろう。  スープがある間はリオは物乞いだけでなく、靴磨きなんかの他の仕事もして少しはお金を稼ぐことができる。そうしたら少しアンナのミルクを買ってあげることもできるかもしれない。  今回はたくさんパンとベーコンを貰っていたのでスープがある間は物乞いに行かなくて済んだ。  でもリオがそうやってお金を稼ぎに行っている間に、おかあさんは大きな心臓の発作を起こした。  5歳のアネッサは急いで近所の人を呼びに行ったのだが、来てくれた近所のお祖父さんと妹たちだけではどうにもできなかった。お医者を呼ぶお金なんてないから、そのまま見守る事しかできなかった。  リオが家に帰った時には、もうお母さんは冷たくなっていた。  お葬式は隣りに住んでいる、お母さんが亡くなるときに一緒に見守ってくれた、やっぱり貧乏だけど親切なおじいさんが教会に話に行って、牧師さんに話をしてくれた。  お金が無くても牧師さんのおかげで家族だけで質素なお葬式をあげることができた。お母さんのお墓も教会の持ち物の土地に、多くの人と一緒に埋められることになった。でも、お墓が共同でもないよりは全然ましだ。  お母さんがいなくなってしまったので、大家さんがやってきてリオに言った。 「悪いけどね、子供だけじゃ家賃も払えないだろうし、これまでの家賃もずいぶん溜まっているから出て行ってもらうよ。」  リオは何も言い返すことができなかった。1歳の妹のアンナは5歳の妹アネッサが抱いて、リオは3歳の妹のアニーと手をつないで、とりあえず一枚ずつある着替えを持って家を出た。    毛布も欲しかったが、それ以上の物は大家さんがお金に換えるので持ち出してはいけないと言われた。  リオは途方に暮れていた。妹たちをどうしたらいいだろう。もう調理する場所もない。温かい食べ物を食べられなかったら1歳の妹は体温が下がって、きっとすぐに死んでしまうだろう。  今夜寝る場所さえないのだ。  施しを受けるために大きなお屋敷を訪ねることはあっても、小さい妹をどうしたらいいのかは思い浮かばない。  今のこの世の中では昔聞いたことのある、親のない子供が入れる孤児院なんてどこにもなかったし、小さくて生きられない子供は普通に死んで行っていたのだから。  リオはとりあえずその日に眠る場所を探した。でも、思っているようにはねぐらは見つからなかった。  此処だと思った場所には、もうすでに他の浮浪児たちが寝ているか、大人の浮浪者が陣取っているかだった。  仕方がなく、空いていた大きな樹の下に妹たちを連れて行って1歳のアンナをリオが抱き、樹に背中を持たせかける。リオとアンナにかぶさるように3歳のアニーとと5歳のアネッサがくっついてくる。4人の体温で何とか暖を取りその夜は無事に過ごすことができた。  翌朝になっても、リオは何も思いつかなかった。でも、施しをしてくれたあのやさしい大きなお屋敷の奥様の顔を思い出した。  リオは考えた。『俺だけだったら何とか生活もできるけれど、5歳のアネッサも何とかなるかもしれないけれど、アニーとアンナ二人をあの奥様に預けられないだろうか?』 『俺が仕事をしている間だけでもいいから、面倒を見てはくれないだろうか?』    そんなとんでもない話。今のひどい世の中では考えられなかった。でも、小さい妹たちを守るためにはそれしかない。  何とか、何とか頼んでみよう。  リオは意を決してあの大きなお屋敷に向かった。        
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加