お屋敷での生活(お食事)

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お屋敷での生活(お食事)

 さて、綺麗にしてもらって、自分たちの部屋を与えられたものの、まだ養子縁組をためらっている状態で、浮浪児になってしまった子供たちをリビングに連れ出してお茶を飲んだり、食堂でお食事させるのは、他のお屋敷の奥様達の眼もあり、夕食にはよそのご夫妻も招いたりするパーティもあるので、一足飛びに食堂やリビングで一緒にテーブルを囲むという訳にはいかなかった。  旦那様と奥様は相談して、リオ達兄弟の部屋を最初からすこし大きめにしていた。  そして、誰の目も気にせずに兄妹がそろってお昼ご飯を食べられるように大きなテーブルを運び込んだ。  朝ごはんは旦那様と奥様もリオ達兄妹と一緒に食べるようにした。  お屋敷に来てからは空腹になったことがなかった1歳のアンナは、お腹がいっぱいなので、これまでのように空腹で朝早く目が覚めることなく、朝もぐっすりと眠っている。  しかしそれではリオの勉強の時間に間に合わなくなってしまうので、奥様がアンナの様子を見ながら一緒にお食事をするのだった。  リオ達兄妹は旦那様の従妹の子供達のように、食事中にふざけあったり、食器で遊んだりなどという事はせず、食事の前にはいただきます。皆の食事が終わるのを待って、食事が終ればごちそうさまをきちんと言えた。  それに、小さな声でその日の嬉しかった事などを話し、みんなニコニコしながら食事を大切に食べる様は旦那様と奥様の心を強く打った。  3歳のアニーまでがきちんと挨拶やマナーができるのを見て、奥様は 「ねぇ、リオ?だれがこんなにお行儀をきちんと教えたの?お母様かしら?」  と、我慢できずに聞いてみた。 「奥様、僕の家は元々兵士の家系でした。戦争があまりに続くので貧しくはなってしまったけれど、躾は小さい頃から母親にされていました。」 「ただ、食べるものが無くなってからは施しを受けなければいけなくて。ナイフの使い方なんかは妹たちに教えられなかったのです。」 「奥様には本当によくしていただきました。おかげで、小さい妹たちもナイフとフォークでベーコンを切るのだという事を覚えられたのです。」 「だから、躾の半分は母のおかげ、半分は奥様が下さった食べ物のおかげなんです。」  リオは恥ずかしそうにそう答えた。そして、 「みんなで食べるご飯が一番おいしいんです。我が家ではそれを楽しい食卓と呼んでいました。たとえ、話すことが少なくても、みんなが幸せそうにを過ごして食事をしている姿を見ることができるのが楽しい食卓なんです。」 「今は、ずうずうしいと思いますけれど、旦那様や奥様と一緒に食卓を囲めるのがとても嬉しいのです。まるで父さんと母さんが帰ってきたみたいで。美味しいのはもちろん、ごちそうが沢山あるので美味しいです。」 「それにもとても感謝しています。でも、母さんが亡くなって食卓すらも無くなった僕たちに新しい食卓と食べるものを与えてくださった。そして、こんな身分違いの僕たちと一緒に食卓を囲んでくださる。」 「何よりも旦那様も奥様も笑顔で食べてくださる。おかげで、眼にしたことの無い豪華なごちそうにも気後れすることなくを過ごすことができているんです。」  旦那様も奥様もリオのその言葉を聞き、自分たちはこれまでにをすごしていたのだろうか?と考えた。  食べ物にも環境にも恵まれて、結婚したばかりの時は二人だけの食卓でも同じものを一緒に食べる喜びがあった。それはきっとだったのだろう。そんなことにも気づかずに、自分たちの悲しみの為に貴重な時間を逃してしまっていた旦那様は大層後悔して、奥様に改めて 「子供が亡くなった後、一緒に食事をしなくて申し訳なかった。」  とお詫びをした。  奥様も 「私も悲しい顔ばかりして、哀しかったのはあなただって同じだったのに。気遣いが足りませんでした。」 「私たち、リオやあの小さな天使の女の子たちに随分救われているわね。」  まずはお屋敷に慣れてもらうと決めた期間の間に、旦那様と奥様はすっかりリオ兄妹に心奪われていた。元々軍人の家系だったという事も、貧しい身分を払しょくするのに旦那様の迷いを少なくした。  そして、その段階でリオの成長が思うように家を継げるようなものではなくてもこの子供たちを養子にしようと二人だけで決めたのだった。  
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