奥様と妹たち

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奥様と妹たち

 お屋敷になれる期間にすっかり奥様に心を許した妹たち。  特に1歳のアンナはどこに行くにも奥様のドレスの裾をちょこんとつまんでついて歩いた。  まだ足取りも怪しいのですぐに奥様が抱き上げてくれて一緒に移動することになるのだが。  5歳のアネッサは、アンナが奥様に面倒をかけてはいけないと、奥様から引き離そうとするのだけれど、奥様が 「いいのよ。あなたたちも一緒にいらっしゃい。」  と、言って、アネッサとアニーも奥様と一緒に移動してリオに与えられた広めの兄弟の部屋でゆったりと時を過ごすのだった。  そして、その時間には奥様付きのメイド以外は兄弟の部屋には入れないのだった。  このところ奥様は今までのように他のお屋敷の奥様達とお茶を飲んだりはしていない。子供たちがお屋敷に慣れるまではなるべく一緒にいようと決めたのだ。  まだ、大きなお屋敷全体を覚えるのは無理なので、おトイレと自分たちの部屋の位置は覚えてもらって、アンナはともかくアネッサやアニーは自分でトイレに行ったり自分たちに割り当てられた部屋に戻ったりできるようになった。  その時にメイドさんに会ったりすると、メイドさん達をまねて、ドレスの裾を軽くつまんで挨拶をする姿が可愛らしいとメイドさんの間でも人気者になっていた。  奥様付きのメイドさんもすっかりこの金髪の天使たちにメロメロで、奥様が主にアンナに愛情を深く注いでいる間、とても賢い5歳のアネッサは自分が何もお手伝いができないことに心を痛めているのに気づき、奥様の許可を貰って、メイドさんと一緒にお食事を運んだり、アニーやアンナのお風呂を用意したりするのを手伝ってもらった。  そうしないとアネッサは遠慮のあまり食事が喉を通らなかったりするのだ。奥様はその話を聞くと、眼を曇らせ、アネッサとよく話し合った。 「アネッサ、お手伝いしてくれるのはとっても嬉しいわ。今までリオと一緒にお家の事をたくさんやってきたのですものね。」 「でもね、アネッサはもうお仕事をしなくてもいいのよ。その代わりリオがとっても頑張ってくいれているからね。そうね。アンナが眠っている間、私と刺繍でもしましょうか?」 「奥様、私、刺繍はしたことがありません。ご迷惑になってしまいます。」 「大丈夫。教えてあげるわ。私は子供がいないからアネッサが一緒に刺繍をしたり、ピアノを弾いてくれると嬉しいわ。」  そこで、ようやく、アネッサも奥様が私に望んでいるのはお手伝いではないという事に気づいた。  アニーはまだ刺繍をするには早いし、アンナのような赤ちゃんでもないので一番手がかかったが、元々おとなしい子供達だったので、アンナには大きなお人形の家とそこで遊べるお人形さんを買ってあげた。  もちろん、妹たちが仲良く遊べるように可愛いお人形さんは3つ。アネッサだって一緒に遊べるし、アンナも一緒に遊びたがった。  そして、アニーは 「お人形の家はあなたの物だから好きに使っていいのよ。」  と、奥様に言われてはいたものの、姉や妹と喧嘩することなく、買って貰ったとても高価な大きなお人形の家を傷つけたりしないようにとても大切に遊んだ。  時々、メイドさんに端切れを貰ってお家を3人でお掃除したりして、お互いに譲り合って楽しくお人形遊びをするのだった。  なにせ、生まれて初めての女の子らしいおもちゃを頂いたのだ。  アニーが貰ったものだとしてもアネッサは妬むどころかアニーに良かったわね。と笑顔で言い、アンナは全く何もわからなかったけれど、優しいアニーのおかげでいつでも遊べるので嬉しくてたまらなかった。  3人が仲良く遊ぶ姿は、奥様にとっても、奥様の悲しみを知っているメイドさん達にとっても心温まる光景だった。  3人ともとてもおとなしく良い子だった。食べ物を十分食べ、子供らしい眼の光が戻ってきていても大声を出したりすることもなく静かに遊んでいるのだった。でも笑顔は増え、子供らしくキャッキャと笑いあったりすることも増えてきた。  妹たちはお屋敷に来たときよりは頬に赤みが差し、少し顔もふっくらしてきてますます可愛くなってきていた。この調子だったら暖かくなる頃には大きなお屋敷の広いお庭に出て遊ぶこともできるだろう。  リオは食事の時に、部屋に増えているその豪華なおもちゃを見て驚き、アネッサに事情を聞いた。そして、お食事の時に静かな声で、 「妹たちに大層なものを買っていただいてありがとうございます。僕、なんてお礼を言ったらいいかわかりません。」 「早く旦那様を手伝えるように勉強も執事さんのお手伝いも一生懸命します。」  そう、誰一人不機嫌にならない楽しい食卓で、おいしい時間をすごしながら丁寧にお礼を言った。  
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