家にご飯がない

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家にご飯がない

「リオ。悪いんだけど、また貰ってきておくれよ。」 「・・・わかった。」  リオの父親はこの前の戦争で死んでしまった。  母親は一番下の妹を産んだ後から体調が悪くずっと寝込んだままだ。お金がないからお医者様はは呼べない。  リオには3人の妹がいる。  俺はリオ。7歳。妹たちはアネッサ5歳。アニー3歳。アンナ1歳。  4人ともお母さんとお父さんによく似た金髪で蒼い眼を持っていたが、しばらくお風呂にも入っていないのでどことなく薄汚れていたし、蒼い眼も子供らしくキラキラと輝くこともなく、暗い色の眼に見えるほどだった。  リオはかろうじて一緒についてこられる3歳のアニーを連れてお金持ちの家を回って食べ物を貰いに行く。5歳のアネッサはお母さんの看病と1歳のアンナの世話だ。  親のいない浮浪児たちも同じようにお金持ちの家に物乞いに行く。  今のこの世界では普通の事だ。大きな爆弾が落ちて、色々な国がいっぺんに戦争を始めてから10年が経っているそうだ。  母親に聞いたことがあるが、昔は生活保護と言う制度があって貧しい家には国からのお金が配られたそうだ。  今はお金のない人が多すぎて国もみんなにお金を配ることができない。もうそれが普通になってしまってから10年が経つので、戦争が始まってから生まれたリオにとっては食べ物が無ければ物乞いに行くのが当たり前だった。  その他にはお金持ちの旦那様の靴磨きや、ゴミ拾いをして、少しのお金を得て、家賃や薪を買ってくるお金の足しにしていた。  もうそれが普通の事だから、国の中にはお金持ちと貧乏人の二種類しかいないのだった。  貧乏人の中でも一番ひどいのが浮浪児たち。家もなくて路上でかろうじて雨をしのげる公園の遊具の下とか、爆撃で半分壊れてしまって、もう電車や車が走らなくなったトンネルとかに住処を作っている。服もボロボロだし、靴も履いていない。  もうお店をやっていない昔の地下街も本当はいい場所なのでけれど、ここは大人の浮浪者がいて浮浪児は簡単に追い出されてしまうし、下手をすると殴られたり蹴られたりして酷い目にあうこともある。だから浮浪児たちはあまり近づかない。  俺はまだましな方。とリオは思う。家はある。母親もいる。妹たちもいる。親が働けないから俺が食べ物を貰いに行く。  今日はいつもこっそりパンをくれる大きなお屋敷の台所に行くんだ。  3歳のアニーを連れて行くのはその方がかわいそうに思ってもらって少しは多めに食べるものを貰えるから。  ところが今日は様子が違った。  いつもは台所にこっそり行って、優しいお台所のメイドのお姉さんがパンをくれる。  でも、今日は台所に行ったらお台所のメイドのお姉さんに玄関に周りなさいって言われたんだ。  何か悪いことが起きるのかとどきどきしながら玄関にいったら、少し奥の居間で、その家の奥様がお友達とお茶を飲んでいた。  咄嗟にリオは怒られるのかと思った。だっていつもお台所で食べ物をもらうときも優しいメイドのお姉さんに『内緒よ。』と耳打ちされてこっそりとパンを少し貰えるだけだったから。  でもその日は直接奥様の見える玄関に行くように言われた。  奥様はリオと、妹のアニーを見ると、お台所のお手伝いのお姉さんにこう言ったんだ。 「沢山お上げなさい。その子供達靴を履いているじゃないの。お家には大人の人はいるの?外にいる浮浪児は靴なんか履いていないからね。」  リオは少し口ごもったが 「お父さんはこの前の戦争で死にました。お母さんは一番下の妹を産んでから、病気で働けません。僕とこの3歳の妹のほかに後二人5歳と1歳の妹が居ます。」  奥様は少し顔を曇らせながらリオの話を聞いていたがやがて 「パンを2本とベーコンを多めに切っておあげ。」  いつもパンをくれる優しいお台所のメイドのお姉さんにそういいつけると、周りの奥様達が 「まぁ、奥様。素晴らしいわ。最近聞いておりましたのよ。貧しい子供たちにお食事をあげるボランティアをなさるのね。」  すると大きなお屋敷の奥様は、 「あら、そんな事。私達にしたら大した事ではないんですもの。子供がおなかを空かせるのは可愛そうですからね。」  だってさ。  今までは奥様に怒られるからってこっそりパンを少し貰えただけなのに。  どうやらここの奥様は誉められるのが好きなようだ。  そうするうちにパンを丸々2本とベーコンがとても沢山入った袋をいつものお台所のメイドのお姉さんが渡してくれた。  そして小さな声で 「ほら、奥様に大きな声でお礼を言うのよ。」  と、囁いた。  俺は慌てて 「奥様、こんなに沢山の食べ物をありがとうございます。」  と、言うと 「無くなったらまた来なさいな。」  と、奥様は、にっこりとして俺とアニー、そしてほかの奥様に笑いかけた。 「なかなかできることではございませんわ。」 「本当に。素晴らしいわ。」  ほかの奥様達が次々に誉めて、奥様は大変満足げだった。  リオ達もいつもより沢山の食べ物をもらったので、今日はほかの家の台所は回らなくてすんだ。    リオは家に帰ると早速今日起きたことを母親に話した。  そして、食卓にはごはんの時だけ掛ける綺麗な白い布をかけて、その上にご飯を用意する。  その日はいつもよりごちそうだった。パンもいつもより沢山食べられたし、ベーコンを焼いて、妹達でも食べられるように小さく切ってあげる。  お母さんには昨日貰った牛乳で、ベーコンで塩味を付けたパンがゆを作ってあげた。  小さくて古い、隙間風が入るような家だったけれど、俺はみんなで囲めるこの食卓が何よりも大切だった。おいしい物を大好きな家族と食べるこのおいしい時間は何にも代えがたいものだった。  みんな、お腹いっぱい食べて、幸せな気持ちでベッドに入った。
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