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そう言ってさらさらと、下描きをなぞるような速さでうさぎを描いた。美乃梨が浮かび上がらせた月の中央にそれを、その周りにはハートマークを、象徴主義とは程遠いポップなタッチで描き出す。
「わあ、かわいい」
うれしそうに笑う彼女と、
「当然だ」
誇らしく胸を張った僕。
美乃梨は食い入るようにうさぎを見つめ、言った。
「随分と描き慣れてるね。このうさぎ、キャラとして売れるんじゃない?」
僕もうれしくなり、つい、本音を出してしまう。
「子どもの頃から描いてるから。これが僕の原点なんだ。次第にリアルなうさぎを描くようになって、気づいたら神話に手を出してた。食っていけるなら、うさぎだけ描いていたいぐらいだよ」
どれだけ月にうさぎを浮かべてきただろう。うさぎが月に棲んでいると、未だに信じている僕は愚かだろうか。
世界が月光によって深海色に染まるとき、きっと地上の至るところでうさぎが顔を出している。長い耳を立てながら、恋の話を盗み聞くように。
僕は彼女に言った。
「コーヒー飲みに行かない?」
美乃梨は写生帖を胸に抱えて頷く。
「とりあえず、OK」
そしてここから、僕らの物語が始まった──。
(了)
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