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引っ越しが終わって
休日の金曜日早朝から一聖は荷物の積み出しを開始した、大学生の荷物なんて・・・・・・と思った私が浅はかだった。
私の学生時代とはまるっきり違う、服と靴箱だけで一部屋埋まってしまった。
昼過ぎにやっと運びこみが終わって、部屋の中の山積みになった服やら靴の箱を片付ける・・・・・・壁一面のクローゼットの中は様々な服が並び、今どきの学生のファッション感覚に脱帽する。
それに比べて私の部屋のクローゼットは季節ごとの服が数枚とコートが2枚後は部屋で着るためのスエットやTシャツ、ジャージの類などでお洒落とは全く無縁だ。
一聖はそれでなくても背も高く見てくれだって悪くない・・・・・・悪くないと言うより目立つ、華やかでそれでいて上品で目鼻立ちも整っている、少し幼い感じがするがそれも女性からすれば母性本能をくすぐられると言うタイプだろう・・・・・・そんな青年がどうして私のような無骨な男に好意を持ったのだろう。
あの若さとビジュアルがあれば女性は選び放題だろうしそれに呼応する経済力だってある、たとえそれが親の力だったとしても今どきの若者に取ってそんな事は問題なく親ガチャの勝ち組だと思う者の方が多いだろう。
そんな事を考えているとも知らず一聖は部屋の片づけに夢中だ、私は昼食の準備に取り掛かった。
簡単で直ぐに食べられるように煮込みうどんとおにぎりをテーブルに並べて一聖を呼ぶ。
「一聖お昼用意したから食べてからにしろ」
「はーい」
部屋から出てテーブルに着くと私の顔を見てにっこり笑う。
「どうした?」
「だって嬉しいんだ、こうやってお昼一緒に食べられて・・・・・・」
「そうだな、これからはずっと一緒だ・・・・・・手伝うことはないか?」
「服の整理だけだから大丈夫、すぐ終わるよ」
「終わったら晩御飯は外に食べに行くか?」
「うんそうしよ」
服を出してクローゼットに掛けて、靴の入った箱を部屋の中に積み上げてやっと片づけが終わった。
ベッドは初めから持ってくる予定はなかったとはいえ、たとえ持ってきてもあの部屋に置く場所は無かっただろう。
結局あの部屋は一聖の衣裳部屋となった。
「一聖の服凄いな、靴もあんなにいるか?」
「まぁーこれまでの僕の興味はそれぐらいだったからさ、これからはもうそんな無駄遣いはしないよ」
「それは私の口出しすることじゃないから、好きにしたらいいけど」
「燎は何着てもカッコいいからさ、お洒落しないで俺心配になるから」
「まさか・・・・・・私のどこがカッコいいんだ?始めて言われたぞ」
「うそ!それ絶対嘘だ」
「嘘なもんか、これまでだってモテたことも無いし彼女だっていなかったんだから、告白された事もないぞ。一聖と違ってさ」
「俺だって彼女とかいなかったし好きになったことも無いよ。燎は自分が気が付かなかっただけで、絶対燎の事好きだと思ってる人いたと思うよ、だってカッコいいもん」
「お前だけだよ、そんなこと言ってくれるのは」
「絶対浮気しないでよ約束して!お洒落も禁止だからね」
「わかった」
可愛い顔で言う一聖に自分の表情筋がゆるゆるになっている、これまでの自分が見たらさぞや驚くだろう・・・・・・それぐらいこの青年に出逢った事で自分は変わった。
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