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一聖からのメール
寒くなるとフライトドクターとしての仕事は増える、過疎地での高齢者の急患が増えるからだ。
脳梗塞・心筋梗塞・血管障害の患者にとって時間が生死を分けると言っても過言ではない、一刻を争う症状にヘリが欠かせなくなる。
日に3度の出動も稀ではない、民間のドクターヘリの需要も公営のドクターヘリ同様頻繁になってくる。
仕事に追われ深夜に帰宅して泥のように眠る日々が続いた、 一聖が言ってたようにこんな時温かな食事と彼の笑顔が待っていてくれたら……そんな勝手なことを考えていた。
一聖からはあれから電話もメールも一度も来ていない、私の言葉に気を悪くしたか、それとも就職先を探しているのか……
どちらにせよ日常が戻ってきたという事だろう。
逢いたい気持ちも忙しさに紛れて、誤魔化せるうちはまだいいのかもしれないと、自分を納得させた。
一聖からメールが来たのは、さらにひと月が経ったころだった、フライトから戻って帰る準備をしているとスマートフォンがメールの着信を告げる、自分にメールを送る相手は 一聖だけだ。
急いでメールを見る……
【就職決まったよ、今夜逢いたい】
なんとタイミングのいいことか……
【今仕事が終わった、食事するか?】
【うん……行く】
【この前の焼肉屋で待ってる】
【すぐ行く】
急いで病院を出る、電車に乗って待ち合わせの焼肉屋へ急いだ。
店の前ですでに 一聖が待っていた。
「燎さん、お久しぶりです」
「元気だったか?」
「はい!仕事やっと決まりました」
「そうか、おめでとう!
取り合えず中に入ろう」
「はい」
込み合う店内で個室を指定して、待合でしばらく待った。
「何の仕事だと思う?」
「なんだろう?」
「燎さんが自分のやりたいことを見つけろっていてたから、ずっと考えてみたんだ。俺母さんと同じように子供が好きなんだ、だから教会の施設でお手伝いしようと思って」
「教会?」
「そう、この一か月ずっとお願いしてたんだ。やっと雇ってもらえて……お金はそんなに貰えないんだけど……」
一聖が子供が好きだと聞いて意外な気がした、今どきの若者でしかも金持ちの青年が施設で子供の世話をするなど、思いもかけなかった。
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