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すれ違い
遅い晩ご飯をすませ、風呂に入ると柔らかに解された身体はまた眠気に襲われた!
キッチンで片付けをしている一聖の後ろ姿を見ながら寝室へ入るとベットに沈み込むように眠りについた!
ぐっすりと眠った朝の目覚めは気持ちがいい、隣にいるはずの一聖の場所は冷たく、時間を確認するとすでに10時をまわっていた!
ベッドから出てダイニングへ行くとテーブルには朝食が用意されていた!
パンはトースターで焼いて、コーヒーはスイッチを入れるだけ、サラダは冷蔵庫に入れてあると丁寧なメモまで置かれていた。
そして最後に『愛してる、仕事が終わったら買い物して帰るから、晩御飯待っててね!一聖』
そう書かれていた。
言われた通りにパンを焼いてコーヒーを入れて、朝食を済ませる。
リビングへ行ってテレビをつけると、ニュースでは爆発事故のことを伝えていた。
窓の外は明るい陽射しが降り注ぎ、暖かな春がそこまできている事を感じた。
一聖は今頃子供たちに囲まれているのだろうか?
見たことのない顔をして子供たちと遊ぶ一聖に思いをはせる。
リビングとキッチンを往復するのんびりとした1日を過ごし、もうすぐ一聖の帰宅時間だと思うと少し気持ちがソワソワする。
窓の外もすっかり暗くなり、部屋の中も急に冷え込んできた、桜が咲くにはまだもう少しありそうだ。
桜が咲いたら生まれて初めての花見にも行きたいと思う、これまで学校や病院の桜は見ていたが季節の移り変わりのただの変化でしかなかった。
だが今は………あの儚げで優しい桜の花の下を一聖と二人で歩いてみたいと思った。
一聖と知り合ってこれまで思ってもいなかったことをやりたくなる、人並みに春になったら花見に行きたい夏になったら花火を見て夜店をのぞきたい、秋には紅葉を見に遠出がしたい………やりたいことが次々に浮かんでくる。
一人ニヤ付きながらそんなことを考えている、時間はすでに9時を過ぎていた。
メールもなく電話も来ない………いつもより遅い帰宅になるならメールの一つも寄こすはずなのに………
電話をかけてもメールをしても応答はなく呼び出し音だけが鳴り続けた………
次第に不安が膨らみじっとしていられなくなってくる、何があったのか理由もわからず、かといって一聖の仕事先も知らなかった。
何処で仕事をしているのか子供たちの世話をするとは聞いていたが、それがどんな仕事なのか何処にあるのか何も聞いていなかった。
時間は刻々と過ぎ居てもたってもいられなくなる………鍵とスマートフォンを握り締めてマンションの外へ出てみた。
マンションの外は道路まで芝生と花壇と木々が植え込まれている、その周辺を歩いてみた。
「一聖」
どこかにいるような気がして名前を呼んだ………
あまり離れてしまうとその間に一聖が帰って来るような気がしてまたすぐにマンションの入り口まで戻った。
何度も繰り返し諦めて部屋に戻る、買い物をして帰るから晩御飯は待っていてと言ったのに………
深夜になっても連絡はなく、悪い予感ばかりが胸の中に去来した。
交通事故ではないか………そう思って緊急通報に問い合わせをしてみるが、12時間以内にそんな事故の報告はないと言われて、少し安心した。
だったら………また他の理由を探して不安はさらに大きくなっていった。
リビングに座ったままスマホを握りしめ立ったり座ったりリビングを歩き回り、気が付けば外は明るくなっていた。
いったい一聖はどこへ行ったのか?
まさか・・・・・もう2度と逢えなくなるのでは………不安と寂しさと孤独感で心臓は早鐘を打つように騒ぎ、涙が溢れ出した………一聖の名前をつぶやきどうすればいいのかわからず気持ちだけが暴走しそうになった。
その時オートロックの入り口に来客があることを告げるチャイムが鳴った。
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