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患者のプライバシー
医師が患者のプライバシーに関わることは、治療に必要な場合を除いて一切ない。
どのような経済状態だろうが、有名人だろうが重要人物だろうが治療する側にとって、それらのことを憂慮する事も、そのことで優先することもない。
自分にとってすべての患者が平等であり治療をすることだけが最前提になっている。
一ノ瀬 一聖は搬送された後、緊急手術を行い徹底的に骨折部を洗浄し、雑菌による感染を起こさないように抗生剤の全身投与が行われていた。
術後1か月たってリハビリも順調に進み、病室内なら補助器具があれば歩けるまでに回復していた。
彼のことを他の患者より特に気にしていたわけではないが、看護師たちの立ち話が耳に入った。
「ね、聞いた?整形外科に入院してる一ノ瀬 一聖って子入院してから家族って誰も来てないらしいよ。」
「そうなんだ、一ノ瀬総合商社の社長の一人息子なんでしょ?親はいないの?」
「父親しかいなくてその父親も息子に無関心なんだって」
「そう、気の毒ね……お金の心配はなくても寂しいでしょうね」
「そうよね、1か月誰も来ないなんて・…来たのは手続きとか必要なものを秘書の人が持ってきただけだって」
「特別室は豪華で広いけど、大部屋のほうがまだいいかもね」
「そうもいかないんじゃないの」
そういえばあの日彼が「また来てほしい」といった時、「用があるなら親御さんに言え」そう言ったのを思い出した。
あの言葉を彼はどう聞いていただろう……そう思うと堪らない気持ちになった。
自分はずっと一人で生きてきた、物心ついたときには牧師やシスターと共に過ごし、特別はなくすべてにおいて平等であることを強いられた。
それでも親の顔も知らない自分はそれが当たり前で日常だった。
だが彼はどうだろう……親がいながら放置される寂しさは私にはわからない。
おそらく放置される現状は今に始まったことではないだろう、子供の頃からずっとそうだったとしたら……
行ってみよう……そう思った。
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