いつもの

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いつもの

昨日一聖の行方が分からず、こんな気持ちのままで仕事は無理だと判断して有給休暇を申請した。 少しの油断が命の危険をもたらす、常に平常心でなければ医師の仕事に失敗は許されない………それは即命の危機につながるからだ。 やっと一聖が帰っていつもの日常が戻った。 朝一緒に起きて朝食をとり先に仕事へ出かける、一聖はその後片づけと洗濯をして仕事へ向かう。 私の今日の仕事は緊急事態がなければ定時に終わる、一聖が終わるのを待って一緒に買い物に行く約束をした。 あの日空っぽの冷蔵庫に今夜は満杯の食材を入れた……… 一聖の仕事は教会にある施設での作業だと言った、小さな子供たちの世話と食事の用意そして洗濯………人手の足りない施設で男手は大いに役立つと喜ばれているらしい。 何不自由なく育った一聖が唯一ほしかった温かな家庭………それを知らない子供たちに少しでも温かな食事と気持ちを与えたいと言った。 私に夢と希望を与えてくれた女性の言葉が蘇る………あの人は今どうしているのだろう………今の僕を見てほしかった。 あなたの援助のおかげで人を助ける医師になれました、夢を叶えてくれたあの人にもう一度逢ってお礼を言いたい………そしてあの人が言っていた「医師になったら力になってほしい」と言った息子にも逢いたかった。 あの頃10歳だと言っていた、今は22歳………彼女の息子は私の助けがいらない大人に成長したのかもしれない。 仕事が終わって一聖にメールをする、駅で待ち合わせてスーパーで買い物をした。 カートを押して食べたいものを考えながら食材を選び、缶ビールとペットボトルの水と朝食用のパンとコーヒー豆、ヨーグルトにバター。 二人で持ちきれないほどの買い物をして袋を下げて帰宅する。 全てを冷蔵庫に収めて一息。 着替えを済ませて二人で食事の用意に取り掛かる、今夜の手料理は一聖の簡単ハンバーグ。 コーンスープに溶き卵を加えてとろみをつけて、ジャガイモとリンゴとハムときゅうりのポテトサラダ……… 「エプロン姿似合ってるな」 「やめろよ」 テーブルに並んだ料理に二人並んで舌鼓を打つ………幸せな時間が訪れた
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