一か月ぶりの一ノ瀬 一聖

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一か月ぶりの一ノ瀬 一聖

仕事が終わって整形外科病棟特別室へ向かったのは夜の9時過ぎだった。 ドアをノックするとすぐに返事が返ってきた。 「あっ!先生……」 「どうだ?リハビリは進んでるか?」 「はい、もうだいぶ良くなりました。先生今日はどうしたの?」 「こっちに用があって来たついでだ」 「先生に逢いたかったんだ……」 ベッドのそばへ行って椅子に座ると彼は嬉しそうな顔で私を見つめた。 「先生、ヘリに乗って治療に行くって凄いな」 「君みたいな患者を助けるためだ、もう無茶するなよ」 「うん、もうスキーはやめるよ」 「大学は?」 「4年だしもう卒業だから……」 「卒業したらどうするんだ?」 「決めてない」 「そうか、まぁゆっくり考えればいいさ、先は長いんだから」 「そう思う?俺さ先生みたいに人の役に立つ仕事したいなって思ってんだけど」 「いいんじゃないか」 「でも、何やったらいいかわかんなくて……」 「一生の事なんだから時間かけて考えればいい、焦ることはない」 「うん」 「じゃぁ私はこれで失礼するよ」 「先生……よかったら俺とまた話してくれる?」 「あぁ時間ができたらまた来る」 「うん、待ってる」 この一か月彼は一人で何を思っていたのだろう? この広い病室で、看護師と担当医以外話す人もなく心配する人もいない彼を思う……誰にも関わらないで過ごして来た自分が、彼のことを気にかけていることが不思議な気がした。
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