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自分の感情に気付く
その日からまた時間を見つけて彼の部屋を訪れた、私が来るのを嬉しそうに待つ彼の目が私を見つめる。
その顔を見ると嬉しくてつい顔がほころんでしまうのはどうしようもなかった。
時間ができると逢いたいと思う自分に戸惑う……8歳も年下の22歳の彼を男である彼のことを好きだと思った。
これまでだれかにこんな感情を抱いたことも誰かを恋しいと思ったこともなく、そんな感情が自分にあるとは思ってもいなかった。
それでも彼とは入院中だけの事だと思っている、退院してしまえば逢うこともなくなる。
患者と医師との関係は身も心も疲弊している入院中だからこその感情で、回復して退院してしまえばもう二度と病院などと関わりたくないのが常だとわかっている。
彼にしても退院すればこれまでの生活が待っていて、その場所に私の存在など無いのは当然のことだ。
入院から2か月、以前と同じとまではいかないが患部は完治し、これからはリハビリに託すだけとなった。
退院の日も近い、今日も彼の病室で雑談に花を咲かせた。
「先生、退院してからも逢ってほしい」
そう言われてなんと返事をしていいのか迷う……
「先生……逢えなくなるの嫌だ、逢ってよ!」
「退院したら友達もいるだろ、私と逢う時間なんてあるのか?」
「そんなの関係ない、時間がないのは先生だから先生の時間に合わせるから逢って」
「わかった」
「じゃぁ先生の番号教えて、それと名前もフルで」
「成瀬 燎番号は……〇×〇〇×……だ」
「成瀬 燎っていうんだ、遼さんか……メールしたら返事してくれるよね」
「あぁー読んだら必ず返事はする」
「燎さん、約束だよ」
可愛い顔でにっこり笑って小指を差し出す、つられて小指を絡めて指切りをした。
嬉しそうに笑う 一聖……退院しても私のことを忘れないでいるのだろうか?
期待しそうになって気持ちを押しとどめる、期待することで来なかったときに恨んでしまう事態を避けたかった。
これまでずっとそうしてきた、だからこそ恋人も友人も作らなった。
期待を裏切られることの辛さ、期待してかなえられなかったときの絶望感、そんなことを避けるためにも期待はしたくない。
そう思って生きてきた、嫌なことから目をそらし希望や期待から逃げてきた。
寂しいことも悲しいことも辛いことも知らない……その代わり嬉しいことも楽しいことも知らずに来た。
彼にとって年の離れた友達、相談できる年上の友人……私にとって唯一の友達だと思うことにした。
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