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初めて先生を見た時痛む足を気にするより先生のことが気になった。
先生に名前を聞くと「成瀬」だと教えてくれた、だけど病院に着いたらそれっきり逢うこともなく広い病室で痛む足を摩りながら日々を過ごした。
その時名前を言えば逢えるかもしれない……そう思って看護師に成瀬先生に逢いたいと告げると、意外と簡単に取り次いでもらえた。
夜先生が病室へ来てくれた、でも冷たい対応だった……また逢いたいと言っても無理だと速攻言われ……患者とプライベートで逢う気はないとか……用があるなら親御さんに言えとか……ひどい言葉ばっかり出て……泣きそうになる。
次の日からまた一人誰も来ない病室……
逃げ出したい毎日にうんざりしかけた時、先生が来た。
俺の頭には????が並ぶ……どうしたの?って聞いたら近くに来たからついでだったらしい。
ついでだろうと俺の事覚えててくれたことが嬉しかった。
次の日からは毎日来てくれた、ほんの少しの時間でも顔が見られてうれしかった。
先生が来るのを待つようになった、必ず来るとは限らないのに……
わかっていたつもりだったのに……3日も逢っていない。
布団を頭からかぶって……それでも耳だけは敏感に外の音を拾っていた。
ドアが開いて部屋へはいって来た誰かが布団をめくった…………先生の懐かしい顔があった。
もう来ないかと思っていたのに、来てくれた。
忙しかったんだって……そう言われたら、そうだよね……先生は仕事してるんだった。
僕はずっと一人だった、母親が急逝したのが10歳の時、教会のボランティアで出かけた後だった。
兄弟もなく仲のいい親戚もなく忙しい父は家には居ない……誰もそばにいないのが当たり前の毎日で大学へ入って一人暮らしをしても、それは変わらず……ただ遊び仲間と時間を過ごすだけの毎日……
それがあの日先生に逢ってから変わった……待ってれば来てくれる人がいる幸せ。
先生に逢いたくて毎日が楽しくてこんな日がずっと続いてほしいと思った。
でも先生にとって俺はただの患者、退院したら……
先生にお願いすることにした、退院しても逢える?逢いたい……そう言ったら「わかった」ってそう言って名前を教えてくれた成瀬 燎って……電話番号もゲットした。
退院したら……食事してもっと仲良くなりたい。
指切りもしてくれた……燎さん……いつかそう呼びたい。
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