すべてなかったことにして

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 二年生の冬、修学旅行目前になって有紗ちゃんにとんでもないことを打ち明けられた。 「ミケのことが好きなの。修学旅行で告白するつもり」  私は卒倒しそうになった。やめておけ、振られるぞ、とは口が裂けても言えなかった。確かに有紗ちゃんはかわいいし、私が本当に男なら迷わず有紗ちゃんを好きになっているだろうが、あいつが好きなのはきっと私だ。有紗ちゃんが傷つくところを見たくはない。 「あー、そうなんだ。えっと、なんでそれを私に言ってくれたの?」 「もし告白がうまくいって付き合うことになったら、何も言わなかったシロちゃんを驚かすことになっちゃうから」  振られるかもしれない想定もしてほしい。もし振られたら部活はどうするつもりか、もう3人ではいられなくなるし、最悪そのあとミケが私に告白でもしてきたらどうしよう。あ、いや、私が好きなのは早瀬先生だからその告白は受けないけど。  結局、告白を止めさせるうまい口実が見つからず、私は泣きそうになりながら修学旅行当日を迎えるのだった。  修学旅行最終日、帰りのバスに乗っているときに有紗ちゃんから「フラれた」とたった4文字のメッセージが送られてきた。学部ごとにバスが分かれているため、いつどうやって告白したかもわからないし、今有紗ちゃんが泣いているのかいないのかもわからない。できればこのバスを飛び降りて、後ろに連なっているバスに乗っている有紗ちゃんを抱きしめたい。そして私は悪くないが「ごめんね」と言いたい。そしてできれば、さらにその後ろに連なっているバスに乗り込んでミケをぶん殴りたい。 悶々とした想いで、有紗ちゃんのメッセージに既読をつけてしまった私は、仕方なく「今度一緒にご飯食べ行こう」と誘うのだった。
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