すべてなかったことにして

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「ほかに好きな人がいるって言われたの」  ファミレスで、飲み放題のドリンクバーを注いでテーブルに帰って来たときだった。一口目を飲みもせずに、泣きそうになりながら有紗ちゃんが呟いた。心臓が嫌に跳ねた。 「誰かは教えてくれなかった。でも私、わかる。ミケが好きなのはシロちゃんだよ」  私もそう思う、と思いながら「そんなことないよ」と言った。今この瞬間に性格の悪さ日本一を決めたらきっと私が優勝だ。 「でも私、シロちゃんを責めたいわけじゃないの。シロちゃんのことは大好きだし、ずっと友だちでいたい。同じ部活仲間でいたい」 「…うん、私もだよ」 「告白なんてしなければよかった。ミケにも気まずい思いさせちゃうし、仮にミケがシロちゃんに告白したら、シロちゃん、断るでしょう?私そんな3人耐えられない」  じゃあどうすればいいの、と聞きたかったが、多分、有紗ちゃんも何をどうすればいいのかわからなくて泣きそうなのだ。有紗ちゃんはミケが好きで、ミケは私が好き。でも私が好きなのは早瀬先生で…、この3人の恋路がうまくいく未来がまったく見えない。有紗ちゃんの顔が見れなくて俯いたら、メロンソーダの細かい炭酸がいくつもはじけていた。泡沫の恋、という言葉を思い出して、思わず「ごめんね」と言った。シロちゃんは悪くないよ、と言いながら有紗ちゃんはとうとう泣き出したが、私は二つのことに対して謝った。  ミケに好きになられてごめんね。告白を止めてあげられなくてごめんね。  そのあとに食べたイチゴパフェはあまり味がしなかった。
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