雪よ。白く、染めて

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 目を開けて最初に飛び込んできたのは、ホテルのピンク色の天井だった。  ハッとして飛び起きると、ベッドに寝ていた私は何も着ていなくて……。 「あ、……眼が覚めた?」  ソファーセットにいた男性がこちらを振り返る。同じ部署の先輩のイケメン男性がいた。  彼のことならよく知ってる、28歳の矢上孝太郎さんだ。独身でイケメンで、会社では独身の女がみんな狙っている、我が部署の若きエース。  そうだ、私。お花見の二次会で……。……………………うふふ。  彼はばつが悪そうな顔をすると、頭を下げた。 「……昨夜は、ごめんな。言い訳にはならないって分かってるけど、酒を飲んだら、その。遠田さんのこと……」  遠田花。それが、私の名前。孝太郎さんの口から私の名前が出るなんて、それだけで嬉しくて仕方がない。 「わ、分かって、ます」  私は震えながらぼそっと呟いた。  ――私、昨夜のお花見の二次会で。彼に薬を盛ったんだ。ネットで買った、妖しい媚薬を……。  だって私、25歳なのに処女だし。なのに、友だち連中はみんな結婚だのなんだのって浮かれてるし。  それで、孝太郎さんは。狙い通り私に手を出した。  私は歓喜に打ち震えつつ、ほくそ笑むの頬をそっと手で押さえた。恥じらうような頬は、きっと桜色に染まっていることだろう。 「う……嬉しかったから……」 「え?」 「私、前から孝太郎さんのこと、す、好きで……」 「……そうか。でもごめん……」  孝太郎さんは申し訳なさそうに俯く。 「その……、俺、付き合ってる女性がいて。だから君とのことは、その」 「え……?」  嘘でしょう? 「そ、そんな話、聞いてない……」 「……秘密にしてるからね」 「相手は誰なんですか?」 「それは言えないよ」 「……うぅ」  私は泣きそうになる。彼とワンナイトの既成事実さえ作ってしまえば、よくあるロマンス漫画みたいな展開になると思っていたのに。 「だから、昨夜のことは誰にも言わないでほしいんだ。僕たちだけの秘密で……」 「秘密……? 私たちだけの、秘密……?」  真っ暗に染まった心の中が、パァッと光で満ちあふれた。  考えてみたら、これもよくあるロマンス漫画の展開じゃない。  エリートイケメン社員のヒーローは、最近彼女とうまくいっていないのよ。でも根暗で平凡な女性社員のヒロインとひょんなことからワンナイトラブして、そこからヒロインの魅力にハマっていくの。  そのための、二人だけの秘密。  やっぱり私って、ロマンス漫画のヒロインなんだ。 「分かりました」  私は満面の笑顔を浮かべると、そっと頭を下げた。 「絶対に誰にも言いませんね」  それから。  私たちは、別々に出社した。
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