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<1・拘束。>
目を覚ましたら、見知らぬ天井でした。――アニメや漫画のオープニングならば、よくあるシチュエーションだ。大きな戦いをして、あるいはとんでもない化け物に遭遇して。気を失って目を覚ましたら、病院なんかのベッドの上でしたというアレ。
そう、ここが清潔そうなベッドの上で、綺麗などこぞの天井を見上げて寝ていたというのなら。安西佳澄も、けしてパニックになったりなどしなかったことだろう。
最大の問題は、見上げた天井がややカビだらけの汚いものであったことと、自分が狭い箱のようなものに両手両足を折りたたんで座るような形で押し込められていること。そして、その両手両足がビニールテープのようなもので縛られていることだろう。
おまけに、口はガムテープのようなものでべったりと塞がれている。これで混乱するなと言う方が無理があるはずだ。
――な、な、なんで、あたし……!?
薄明るい電灯の光の中、最後の記憶を辿る。
覚えているのは、家に帰るために自宅に向かっていたところまでだった。仕事が終わり、最寄り駅に向かって、ちょっと暗い線路沿いの道を歩いていた――そこまでは間違いない。明日また会社で憂鬱だなぁとか。自分も恋人のように大学生に戻りたいなぁ、とか。取り留めのないことを考えつつ、ぼんやりと歩を進めていたはずだ。
そう、それがどうして、こんな訳の分からないことになっているのだろう。まったく記憶が繋がらない。立ち上がろうにも、両手も両足もぐるぐる巻きにされた状態ではどうしようもなかった。いくら佳澄が、それなりに運動神経に自信がある健康な成人女性だとしても、だ。
――こ、ここ……なんかどっかで見たことがある景色に似てるような。
口を塞がれていては、うめき声を上げることが精々である。とりあえず状況を確認しなければ、と首だけを動かして周囲を見回す。そして、段々とこの光景に既視感があることに気が付き始めたのだった。
自分が使ったことがある場所よりもやや汚いが、それでもデザインは酷似している。首を傾けると、やや汚れが目立つ白い便器が見えた。
そして、自分を閉じ込めれているこの“箱”。これは浴槽だ。つまりここは、トイレと風呂が一体化したユニットバスである。何度か恋人の部屋で使わせて貰ったことがあるその場所とは、左右が逆になっているように見えた。と、いうことは。
――ここ、あの人と同じアパートだったりする?……え、どうして?
アパートやマンションだと、隣の部屋とは間取りなんかが左右対称になっていたりするものだ。もちろん、ユニットバスなんかはいろんなところで使い回されているものだろうし、同じデザインのものなんかいくらでもあるだろうから確定は出来ないだろうが。
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