<28・発覚。>

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<28・発覚。>

 噎せ返るほど、甘ったるい匂いが満ちている。男はそのアパートの前で足を止めて舌打ちをした。  気が付くのが、あまりにも遅すぎた。  敏感な人間ならばこの場にいるだけで気分が悪くなるほど甘い匂いが、アパートの周辺充満している。その位置は明確だった。このアパート、ムカイハイツの304号室。男の目には、その部屋のドアから、窓から、ありとあらゆる隙間から吹きあがる薄紅色の煙が見えていた。  “鬼”の気配は、その相手によってあまりにも独特である。  “鬼退治”の専門家として、見つけた端から叩くようにしているが――今回は、相手が悪すぎた。恐らく、本体の力は大したことがない。しかし、隠蔽力があまりにも高すぎる。恐らくは、何かを“隠す”ことに異常に固執した何者かの意思が、偶発的に生み出してしまった鬼なのだろう。 「……手遅れだ」  ギリ、と奥歯を噛み締めた。 「もう、ここまできたら……もう」  自分は、何かを“視る”ことに特化した能力者である。相手の弱点をピンポイントで突くことで鬼を殺すことができることもあるが、基本的に霊能力者として何かを“祓う”力が強いわけではない。  鬼の力がここまで強くなってしまったらもう、手出しすることはあまりにも難しい。一度、“リセット”がかかった時にチャンスがあるかどうかといったところだろう。何より、そいつは自分とあまりにも相性が悪い。 ――もう既に、何人喰ったんだ、こいつは。  今近づいたら、自分もやられてしまうだろう。正確には、自分のようなタイプは直接鬼に憑りつかれることはない。が、憑りつかれた人間の物理攻撃に対して己があまりにも貧弱であることを男はよく理解していた。 ――俺は、あまりにも無力だ。ここまできたらもう、全ては転がり落ちるのを待つばかり。  ”鬼殺し”――新倉焔(にいくらほむら)は思う。  自分に出来る事はもう、いかほども残されてはいないと。
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